第28話 噴水はいつまでも

「熱す!!」

 スワンの声が聞こえた。


 カップを受け取ったカーシャ先生が、暖かくなっていることを確認して、

「これで、全員合格ね」

と、言う。


 マシューは、喜ぶでもなく、「ふん!」と鼻をならして、出ていった。





「課題4は、『熱』ってことだな」

 イアンが、魔法初心者のレインに教えるらしい。


「ねぇ、せっかく他の班がいないし、やってみたいことがあるんだけど……」


 1班は、課題に合格していなくなったし、2班は課題3のテストを受けているはず。


「ニーナのやってみたいこと?」

 イアンは聞いたが、レインは「いいよ~」と、即答していた。

「あれだろ? トーリ先輩に教えてもらった、魔力の制御だろ?」


「僕、トーリ先輩、ちょっと苦手~」

 そういうレインの頭を、ユージが優しく撫でる。


「レイン、ニーナが止まらなかったら頼むな。『水』の魔法なら、一番悪くて、びしょ濡れになるだけだから、『水』で練習しておいた方がいいだろう」


 皆が結界から出たことを確認すると、ニーナは丁寧に魔方陣を描き、真剣な声で唱えた。

「水!」


 魔方陣から出現した水は、噴水のごとく吹き上がり、大きな雨粒になって降り注ぐ。


「ぎゅう~、ぅんん? ぎゅう~!!」

 口では言えても、どうするのが正解なのかわからない。


 カーシャ先生の方を向けば、体を小さく縮めて、「ぎゅう~っとよ! ぎゅう~っと!」と体にも言葉にも、力がこもる。


 ニーナもカーシャ先生と同じ体勢をとってみたが、何も変わらない。


「先生!! ぎゅう~??」

「そうよ、ぎゅう~っとよ!!」


(わからん!!)


「ニーナ!! 二の腕辺りを閉めるんだ」

「二の腕を、閉めるぅ??」


 「なにそれぇ??」と、噴水を吹き上げながら、大騒ぎだ。


 最後まで噴水は収まらず、地面はグチャグチャになってしまった。

「あら、あら、あら、あら、ドロドロになるから、もうおしまいよ~」


 その後、カーシャ先生のお休みもはさんで、3班だけの時を見計らって練習しているのだが、噴水は収まる素振りは見せない。




 気温が下がってきて、秋の足音が聞こえてきた。

 練習場に並ぶ間にも、冷たい風が体温を奪っていく。

 練習場を風避けに出きればいいのだが、今日は1班が先に並んでいて、練習場の壁際に立つこともできなかった。


「へくちゅ!!」


「あら?? ニーナ、風邪かしら?」

「ニーナ、大丈夫?」


「ん~、ちょっと熱っぽいかも。レインうつらないでね~」


 手を握るために、いつも近くにいるレインにうつしてしまうのではないかと心配だ。


「昨日も少し寒かったからなぁ~。着替えるまでに冷えたんじゃないか?」

 ユージが心配そうにする。


 『水』の練習をした後、ビショビショのまま外を歩いて寮に戻った。髪はユージが乾かしてくれるのだが、服は着替えてしまった方が早い。

 特に寒い日だったし、風邪も強かったので、冷えたのかもしれない。


「へくち!! う~ん」


「ニーナが風邪引いちゃう~。 どうしたらいいの?」

 レインがオロオロすると、ミハナが、

「練習場内ではないですが、魔法を使ってもいいですよね?」

と、カイト先生に確認する。


「ミハナの『回復』か? 正確に発動できているし、大丈夫だろう」


 「では」と、ミハナは『回復』魔法を発動した。

「ニーナは、朝御飯、ちゃんと食べられた?」

「うん。ご飯は食べた」


 前のように食べすぎることはなくなったが、一人前しっかり食べている。


「それなら、体力は大丈夫。全身に魔法を掛けちゃうよ」

 ミハナは真剣な顔をすると、「えい!」と気合いをいれた。ミハナから出た、淡い光が大きくなり、ニーナの全身を包む。


 十数えるくらいの時間で、「たぶん、これで大丈夫」と、右手を閉じた。


「う~ん。元々ひどくなかったから、よくわからないけど、治った気がする」

「ニーナったら、せっかくの『回復』魔法、ありがたみがないわね~」

 カレンに言われて、「ミハナ、ありがとう」と、素直に頭を下げた。



「おい!! さっきのは、まさか、・・・『回復』か?」

 ユージが一歩前に出た。

「だったら、何だ?」


「ひぃ~!」

 マシューが、少しだけ怯む。しかし、すぐにユージを避けるようにミハナを見た。

「お前、1班の回復担当になれよ!!」

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