第27話 愛すべきおバカさん

「俺、体痛い……」

 イアンが、観念したように言う。朝から体調が悪そうにしていたのだが、魔法練習場まで歩いている途中に、ついつい口から出てしまったのだ。


「イアン、弱いなぁ~」

 ニーナが言うと、イアンがムスッとする。

「ニーナだって、実は痛いんだろ? さっきから、動きがぎこちないぞ」


「そんなこと、ないって~!」


 もちろん、強がりだ。



 昨日、イアンの両親が帰った後、恥ずかしさからか、照れ隠しか、「ニーナ~!!」と、イアンが追いかけ回した。


 かなり長い間、それこそ皆が、足元の薬草を探して時間を潰すくらい、追いかけ回していた。

 二人ともヘロヘロだったが、最終的に、追い詰められたニーナの、変なファイティングポーズに笑ってしまい、イアンは戦意喪失した。


 そんなわけで、二人は、筋肉痛で足を上げるのも大変なくらいだ。


 魔法練習場には一番乗りしたが、もうすでに疲れきっている。

 その後、2班が到着し、久しぶりに1班が並んだ。


 カーシャ先生は、結界の中には十人しか入れてくれないし、2班と3班が長々と練習していたら、1班は入ることができない。


「なんだよ!!」

 明らかに不機嫌になった1班が、後ろで悪態をつく。


 しばらくすると、マシューが、メンバーを連れて来た。

「おい!! 俺たちを先に入れろ!!」


「なんで、譲らなきゃならないのよ!!」

 一歩踏み出して、力一杯、怒鳴り付けるニーナを見下ろし、マシューは、鼻をならした。

「ふん!! お前ら、どうせ、時間かかるんだろ!? それに比べて、俺らはすぐに合格するからな」


 時間がかかるのは、正解だ。すでに、『浄化』の魔法が使えるメンバーも、カーシャ先生が止めるまで、他の魔法を練習している。


 「きぃー!!」と、さらに噛みつこうとしたとき、イアンが、

「確かに俺たちは時間がかかるから、2班さえよければ、お先にどうぞ」

 勝ち誇ったように1班は、2班に交渉に行くようだ。


「え~!! イアン?? 本当にいいの?」

 ニーナが、抗議のために跳ねようとして、体の痛みに悶絶する。

「・・・・・!!」


「ニーナちゃん大丈夫?? 練習場に入ったら、『回復』魔法、試してみようね」

 ミハナの言葉にニーナは小さく頷く。


「1班が先に入ってくれた方が、落ち着いて練習できると思ったんだよ。俺たちは、最後までいたいだろ?」


「う~ん。まぁ、長く使いたい……よね」

 「まぁ、いいかぁ~」とニーナが納得した頃、背後では、幼児かと思うような暴言の応酬が始まっていた。


「お前ら、バカか~!!」

「バカって言うやつが、バカだ!!」



「・・・・。・・元気だね」

「ニーナに言われちゃ、おしまいだな」


「どういう意味かな~??」

 ニーナがイアンに詰め寄るが、

「イテテテ……。無理~」


「ニーナったら、愛すべきおバカさんね~。もちろん、後ろで騒いでいる、バカとは違う意味よ」

 カレンは面白がるし、ユージもクスクス笑う。

「カレン……。バカって、同じだと思う……」


「ニーナ、大丈夫?」

 レインだけが、心配してくれた。


 ガーン、ゴーン、ガーン、ゴーン。


 鐘が鳴ると、カーシャ先生が、顔を出す。

「あら、あら、あら、あら、今日は騒がしいわね~」


 最後まで2班が譲らなかったので、1班は暴言を吐いて帰っていった。


 練習場に入ると、まずはミハナが『回復』の魔方陣を発現させた。

 細部まで、間違っていないことを確認し、

「回復」

と、唱える。

 右手に淡い光を纏ったのを確認してから、ひどい筋肉痛のところに手を当てた。


 『回復』の魔法は、回復を早めているだけだ。治してもらう人に、治るだけの体力がなければ治らない。


 その点、二人とも体力は十分。


 人に使うのは初めてだったが、

「ミハナすごいね~」

「おぅ! 楽になったな」

 二人の反応に、胸を撫で下ろした。


 その様子を見ていた2班には、衝撃が走る。

 基本魔法のなかでも、一番難しいと言われている『回復』魔法を、3班が使えるなんて!!


 3班よりは勝っているから大丈夫という気持ちでいたが、3班に追い付かれるかもと、尋常ではない集中力を発揮し、2班は課題2に合格した。


 その間、ニーナは『浄化』の魔方陣を練習していた。


(2班がいなくなってくれれば、『水』を制御する練習をしたいんだけどな~)


 さすがに、もう一度ビショビショにするわけにはいかない。

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