第32話 休みは必要・懸念

「もう!!みんなぁ~!!」


 ユージがレインの手をギュット握ったまま、

「レイン、お前、何するつもりだったんだよ?」

と、詰め寄る。


 口を尖らせたレインが、反論する。

「ほんの、ちょっとだけだよ。疲れるから、長くは出来ないから、大丈夫だって」


「ヒヤッとするだけで、実害がないのならいいのだが……。本当だな?」

 カイト先生が、レインの首根っこを掴んだまま問う。

「本当だって~。先生、くすぐったいから、離して~」


 トーリ先輩が、目を丸くして様子を見守っていたのだが

急に声を上げる。

「まさか!!」


 カイト先生が顔を上げ、

「たぶん、そのだな」

と、意味ありげに頷く。


 無言でしばらく固まっていた先輩は、

「困ったときは、言えよ」

と、レインに伝えると、

「じゃ、ニーナちゃん、頑張ってね」

と、寮に戻るようだ。



「ねぇ、先輩も休みは必要だっているし、遊びに行かない?」


 弾むように椅子から乗り出して提案するニーナに、

「少し、お金も貯まってきたし、ちょっと甘いもんでも食べに行くか?」

と、イアンが乗る。


「俺、パス!! 金ないよ」

 ユージが言うと、

「パスは許さねぇ。みんなの分をつつけよ」

「いいわねぇ~。食べたいものを全部頼んで、皆でつつきましょう~。それと、私もユージが来ないなら、行かないわ~」


「・・・。お前らなぁ~」

 ユージが困ったように眉を下げた。


「とりあえず、課題3まで合格したら、お出掛けしようか?」

 ミハナが言うが、

「課題3が、そんなに簡単に合格できるとは思わないんだけどなぁ~」

 イアンが渋い顔をする。


「とにかく、一回、受けてみないとわからないな」


 受かりそうなら、課題3まで合格した後で、そうでなければすぐに遊びに行くことに決まった。


「お前ら……、頼むから、一緒にいてくれよ……」

 ぐったりと疲れた様子でカイト先生が言うので、

「先生はついてこなくていいですよ~」

と、ニーナが宣言する。


「そういうわけに行かないんだよ!! 頼むから、別行動はしないでくれ~」


「先生って、大変なんですねぇ~」

 ミハナが淡々と呟くので、

「こんな特別対応、この班だけだ……」


 ニヤっと笑ったニーナが、

「やったぁ~。先生が奢ってくれるって~」


「はぁ~?? そうは言ってないだろ??」

 皆の「やったぁ~」に打ち消された。




 トーリが部屋に戻ると、班の仲間がベッドに寝転んでいた。

「あぁ、どうだった?」

 トーリも気だるそうに自分のベッドに腰かける。

「あの班には、魔力食いがいた」


 気がついたとき、驚いて、学園の生徒ならこう言うだろうと言う、定型文を口から出すので精一杯だった。

 本当は、もう少し話していたかったが、ボロが出る前にと、逃げ帰ってきてしまったのだ。


「あぁ~。仲いいもんな」


 トーリのよく知る魔力食いは、卒業してしまった先輩の中に一人いた。

 その班も魔力供給のために身体的な距離が近く、それに伴って精神的にも近かった。


「ニーナちゃんは、厳しいかもな。お前が綺麗だって言ってた子、カレンちゃんって言うんだって。少し、変わったこと言うけど、いい子だったよ」


 魔力食いの少年の反応は、トーリがニーナをデートに誘ったことに対する怒りだろう。

 トレーニングを教えている間、射るような視線を感じていたから、気になっていたのだ。


 友人は体を起こし、トーリを覗き込むと、

「仲がいいだけなら、ニーナちゃんも、恋愛には支障がないだろ?」


 トーリは、キツく目を閉じると、

「いや、ニーナちゃんは、贄だ」


 目を閉じていても、慌てる雰囲気が伝わってきた。

「おまっ!! 今時、そんな言葉、使わねぇよ。差別用語だ」


 その昔、まだ国というものができる前。魔力食いを恐れた人々が、魔力食いのために送ったとされる生け贄。

 それが転じて、魔力食い自身が気に入った魔力の持ち主のことをと呼んだ。

 魔力食いは、気に入った魔力供給源に、異常な執着を見せるという。


 いまでは、贄という言葉も、魔力食いが一人に執着するということも、知っている人は減ってしまった。


 魔力食いは怖い。野蛮。

 魔力食いを集めた犯罪集団のせいで、悪いイメージしかない。

 学園では受け入れられているが、ここのように、正しい知識を持っている人は少数だ。


 トーリが、薄目を開けて、天井のシミを眺める。

「俺、候補だったことがあるんだ。ニーナちゃんは、そんな風に見えなかった。万が一、意思に反して拘束されるようなことがあったのなら、助けてあげなきゃな」

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