第23話 「水!!」
「もう三日も魔方陣作ってないから、忘れているかも……」
「ニーナは、指輪があるからね」
レインが余裕の表情なのは、薬草採りの合間に魔方陣の練習だけはしていたからだ。万が一のことを考えて、発動するのは練習場にすると決めていたのだが、魔方陣を描いて、消して、また描いて、といった練習なら問題ない。
ニーナは、魔法封じの指輪が外せないので、その練習さえ出来ていない。
焦る気持ちを押さえて、魔法練習場に並んでいた。後ろには、2班が並んでいるが、1班は来ていない。まだ、課題3を合格していないのか、それとも課題4は、魔法ではないのか。
鐘が鳴って顔を出したカーシャ先生は、顔色がよかった。
「あらあら、もう来ているのね~」
「先生、お願いします! 次は、いつ休みですか?」
急に休まれては堪らない。せめて事前にわかっていれば、朝から林に行けるのに。
「えぇ~わからないわよ~。4日後くらいかしら~」
練習場が使えないと、何にも出来ないのだ。なるべく早く、課題2まで合格したい。
まずはレインが、魔法を発動してみた。
魔方陣の練習も出来ていたので、問題なく水が出現する。すぐにカーシャ先生に見てもらって、合格することが出来た。
次は、ニーナだ。久しぶりの魔方陣。失敗しないように丁寧に発動する。
確認してくれたミハナが、大丈夫だと言うので、魔力をこめた。
「水!!」
ボコボコッと音がして、魔方陣から水が溢れ、勢いよく飛び出した。
噴水のように飛び出した水に慌てたニーナが、魔方陣を見たり皆の顔を見たりとするので、魔方陣の向きも、上へ、横へ。
「ニーナ~!!」
「ぅわぁ~!!」
「ぶは! ちょっとぉ~」
「ストップ! ストップ~!!」
「ふふふ」
天井近くまで打ち上がった噴水が、大粒の雨となり練習場内部に絶え間なく降り注ぐ。
「うわ~!! 濡れる~」
ニーナが叫ぶと、
「ニーナのせいだから~!! 右手を閉じろ~!!」
頭を抱えて、イアンが叫ぶ。
「ぅえ~!! なんだって~!?」
ニーナは、始めての魔法にパニックだ。
嬉しさと、予想外の事が起こった驚きとで、キラキラと落ちてくる大粒の水滴を眺めるという現実逃避をしていた。
魔方陣のところから吹き出す水も、澄んでいて美しい。
「ニーナちゃん!! 右手ぇ~!!」
ミハナの叫びもむなしく。
「ニーナ、こうだ! こう!」
ユージが、自分の右手を握って見せるが、ニーナの視線は魔方陣に向いている。
「ニーナ、すごいね~」
胸の前で小さく拍手していたレインが、ニーナの右手に触れた。
徐々に、飛び出していた水の勢いが、弱まり、
「ニーナ、握って」
言われるままに右手を握ると、ついに水が止まり、魔方陣が消える。
「はああぁ~。出来たぁぁぁ~!! 魔法が使えたぁ~!!」
「・・・・・・」
しばらくの沈黙のあと、
「あぁ、…………そ、…そうだな」
青みがかった銀髪から水を滴らせて、イアンが不承不承に同意する。
「ニーナちゃん、よかったね。レイン君、ありがとう」
ミハナの薄紫の髪をまとめる大きな赤いリボンも、へにゃっと垂れてしまった。
ユージに至っては、『温風』の魔法を発動して、レインの髪を乾かし始めている。
「お前ら、何してくれてんだよ!?」
声の方を振り向けば、2班が、揃いも揃ってびしょ濡れで。
「・・・」
「なにしてんだよぉ~!! 冷たいだろぉ~!!」
(ヤバイ……。魔法が使えて、喜んでいる場合じゃなかった……)
「あ、すんません」
「お前ら、なんとかしろよ~!!」
「俺らが、何とかするのか? 着替えてくればすむ話だろ?」
2班は顔を赤らめて怒っている。腕を組んでジリジリと詰め寄ってくるが、ユージは冷静だ。
イアンがニヤリと笑い、悪い顔をする。爽やかイケメンが台無しだ。
「そうだ!! ニーナ、熱風を送って、乾かしてあげればいいんじゃないか? たしか、熱の魔法、練習してたよな? 魔力最大出力でやれば、一瞬でカピカピになると思うぞ」
熱の魔法は、・・・練習してないが、よく見る魔方陣ではある。
「そっか!! 私が乾かしてあげればいいんだ!!」
イアンのニヤニヤ笑いに、2班は雲行きが怪しいことに気がつく。
「おいおい、やめとけ。ニーナが本気でやったら、消炭になるぞ」
カイト先生は本気で止めているのだが、言い方が軽い。2班は「ひぃ~」っと情けない悲鳴を上げて後ずさる。
「熱の魔法って、こんなんだっけ?」
ニーナが、楽しそうに右手を回して魔方陣を描くと、「うわぁぁ~!!」といって逃げていってしまった。
「えぇぇ~。乾かしてあげようと思ったのに~」
「ニーナには、まだ早い!!」
カイト先生が、真剣な表情で切々と説教を始めてしまった。
「えぇぇ~」
仕方がなく右手を閉じて、魔方陣を消す。
「ニーナは、だな、魔力の制御が出来るまでは、だな、人に使っては、ダメだ!!」
そのあと、いくらやっても、『水』の魔法は噴水で、高く打ち上がった水を受けるという器用な方法でグラスを満たして、なんとか合格することが出来た。
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