第22話 ユウグレ草

 籠を手に持ったまま食堂に向かうと、タイミングが悪く、1班に会ってしまった。


「お前ら、うわははっはっはっは。なに? それ?」

 体の大きなユージが、肩を丸めて小さくなる。

「別に、いいでしょ~。1班には関係ないよ!!」

 小さな体で、食って掛かるのはニーナだ。

「へぇ~。服装は汚れてないみたいだな~。何してるんだ? 教えろよ」


 1班のリーダー的な存在、名前はマシューだと、呼ばれているのを聞いて知った。


 マシューは、ジロジロと3班を舐め回すように見る。

 最後にミハナに目を止めると、片方の口角だけ上げて、ニヤリと笑った。


「あんたたちには関係ないじゃん。1班は、テストだったんでしょ」

「あぁ、あのテストは、お前らには、絶対、無理だね。史上初の、課題3が合格できなくて卒業できない、落ちこぼれになるんだな」

「じゃあ、1班は受かったんだ」

「はぁ~。んなこと、3班には関係ないだろ!! あんなの、問題が悪いんだ。俺らが出来るからって、無理難題を押し付けてるんだ!! 後で、もう一度、ゲルマ先生に抗議してやる!!」


 受からなかったということだろう。しかも、相当難しかったようだ。


「3班は、一生、受からねぇよ~!!」


 確かに……。

 そんな難しい問題……。解ける気がしない。


 歯をむき出しにして威嚇してくるマシューにはうんざりだが、それよりも課題に対する不安の方が大きい。


 マシューが威嚇することに飽きて立ち去ってから、ニーナは振り向き、ユージに手を合わせる。


「ユージ様!! お願いします!!」

「お、俺か??」

「あの部屋で受けられる、テストだってことは、間違いないんだよな」

 イアンも考えているようだ。黙り込んでしまった。


「私、薬草採り、楽しくて。このままでいいんじゃないかと思うんだよね」

 ミハナが、おっとりとした声を出す。

「私たち、課題1と2に時間がかかるんだし、ゆっくりと覚えていけばいいんじゃないかな。ニーナたちも、実践で覚えた方が楽しそうだし、薬草採りしながらお金稼いで、ついでに遊びに行けて、勉強にもなれば。それでも難しければ、テストを受けたあと、考え直そ~」


「まぁ、そうだな。魔法練習場が開くまでは、どうしようもないんだし、ハサミ買ったら、もうちょっと奥まで行くか?」



 確保した席の近くに籠を置き、お昼をもらうための列に並ぶ。

「もう、ハート草はないよ。ハサミがなくても、他の薬草を探そう」


「なんだ? 採集してるのかい?」

 寮母のリサさんが声をかけてきた。

「はい。勉強にもなるかなって」

 イアンが、代表で答える。

「えらいなぁ~。おぉ、レインも元気だな。顔色がいい」


 なるべく、ニーナと手を繋いでいる。さすがに薬草を採っている間は無理だが、行き帰りだけでも十分なようだ。


「ごはん、美味しいんです」

「そりゃ~よかった。たくさん食べるんだぞ。あぁ、採集しているんなら、野生動物にあうかもしれないな。学園の林では殆ど見ないか? う~ん。でも、あそこには魔物はいないから、小動物くらいなら……。まぁ、肉を手に入れたら持ってこい。焼いてやるよ」


 リサさんによると、痛みやすい肉などは、事務所で売ると安くなってしまうらしい。それなら、持って来て、食べてしまった方がいいと。


「あそこに、動物は厳しいだろ~」

 カイト先生は、事務所のお姉さんに睨まれてしまったので、3班の薬草取りの手伝いは出来ない。ちょっとしたお金にしかならない薬草を採るよりはと、3班から離れすぎない程度に探索していたのだ。

「まぁ、そうか。ただし、キノコだけは持ってくるなよ。毒が混じるからな」

「はぁ~い」

 ニーナの返事に、リサさんが顔を綻ばす。

「いい返事だな」

 ニーナとレインが、動くのが困難なほど食べてしまい、しばらく休憩することになってしまった。





「ごめ~ん。めっちゃ、頑張る~。腹ごなしだぁ~」

 やっと動けるようになって、皆に謝り倒したニーナは、籠を手に林に戻ってきた。

 呆れ顔のイアンとユージが、ニーナがぐったりしている間に作戦を考えていたらしい。

「ハサミが二本しかないから、ユージは探す役な。他は、ハサミを交代して、採る役と探す役な。途中でもう一つくらいハサミを買えると思うんだよな~」

「うん!! わかった!」


 ユージのハサミは年期が入っていた。

「かっこいい……」

 黒光りしている使い込まれたハサミを手にしたイアンが、思わずといった様子で呟く。

「そうか? それは、実家から持ってきたんだ。でも、切れ味は学園で買ったものの方がいいだろ。手入れもしているし、愛着もあるけど、そのうちに代えてもいいかなって」

「でも、かっこいいよ」

 イアンは、ハサミの使い心地を確かめながら呟いた。


「こっちだ」

 ユージが向かったのは、少し日陰が多くジメッとしたところ。

「ここでは、あぁ!! これだ」

 何の変哲もない小さな葉っぱがたくさんついている草。ただの雑草にしか見えない。

「これは?」

 イアンもこの平凡な見た目では、名前がわからないらしい。

「これは、ユウグレ草。春になると、赤紫の小さな花を咲かせるんだ」


「へぇ~。春に咲く花も見てみたいなぁ~」

 ミハナは目尻を下げた。小さな花を想像しているのかもしれない。


「せき止めだね。それにしても、俺には雑草にしか見えないよ」

「ちょっと、葉っぱが柔らかそうだろ?」

 イアンは、しばらく眺めてから、

「本当にちょっとな」


「わたし、わかるかも!!」

 ニーナが、明るく言うと、

「ほんと?」

「本当かしらぁ~」

 レインにもカレンにも、疑われてしまう。


 足元を探して、「これだ!!」とユージに確認してもらうと、「それは、違う」と一刀両断。


「えぇ~!! じゃあ、これ!!」

「違うなぁ~。それは、裏がちょっと白っぽい」


 少し、歩き回って、自信のあるものをじっくり選ぶ。

「これだ!!」

「おっ!! 正解!!」

「やったぁ~!!」


 ユージに探してもらい、取りつくしてしまわない程度に採集する。ユウグレ草以外にもいくつか教えてもらった。


 魔法練習場の閉まっている間に、全員分のハサミを買うことが出来、林の回りで採れる薬草は、全部見分けがつくようになった。

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