第21話 練習場が休み

 次の日、朝から張り切って魔法練習場に向かったのだが、入り口まで来たところで、無造作に貼り付けられた、張り紙に愕然とする。


『3日間休みます。 カーシャ』


「・・・・・。」


 確かに、カーシャ先生は、休みを普通にとるから、予定は聞いてくれと言っていたけれど、昨日も来ていたのだから、教えてくれればいいのに。

 恨みがましくカイト先生をみれば、

「ひどいときは、鐘が鳴っても扉が開かないことで気がつくんだ。まだ、マシな方だろ」

と、学生時代を思い出したのか、眉間に深い皺を作った。


 次からは、注意しなければならない。


「魔法が練習できないよぉ!!」


 ニーナの叫びに、3班と同じく魔法練習場に並ぼうと向かってきていた2班がざわめく。


「何にもできないぞ。1班は薬草のテストだろ?? まぁ、3班には勝ってるからいいか」

「おぉ~っし!! 俺たちも、薬草の勉強でもするか~」

「3班には、負けられないもんな~」

「むふ~」


 1班がいないと2班が偉そうにするんだなぁ~と、ぼんやり考えていた。




「ユージ! 今日も薬草取りに行くでしょ」

「まぁな。でも、やっぱり、俺の採った分も3班の口座に入れるべきだと思うんだよな」

 ミーティングルームに向かいながら、ユージが言う。


 ユージ愛用の籠とハサミは、事務所裏の草むらに隠してあったのだが、いつ失くなってしまうかと心配だったらしい。薬草取りをしていることを明かしてしまったので、隠しておく必要がない。カイト先生が、「ミーティングルームに置いておくもんだ」というので、ユージの大きい籠と皆で買った小さい籠を、棚に並べて置いてのだ。


「それについて考えたんだけどな、ユージが採った分は仕送りに使うかわりに、魔法や薬草のことを教えてくれよ。ニーナもレインも魔法初心者だし、俺だって薬草を採ったのは始めてだったんだ。今までは、本でしか見たことなかったからな」


「でも、そんなことで……」


「大事なことだと思うんだよな。エインスワール隊って、魔物に壊された村へ派遣されたりするだろ? 魔物を倒して活躍したってのは、よく聞く話だけど、その後、怪我をした人の救助や、壊されたものの修理なんかも、手伝っているはずなんだ。そんなときには、自分達で薬草を調達しないとならないだろ。だから、ユージの知識はすごいと思うんだ」


「そうだろうか??」

 あまり、納得していない様子のユージだが、ニーナの能天気な声が後ろから聞こえる。

「ユージが教えてくれなきゃ、困るよ~」

 本気で困っているようには聞こえないが、ニーナなりの顰めっ面だ。

「困るなぁ。困るなぁ」

と、ユージの顔をチラリと確認して、慌てて困った顔をする。


「困るわぁ~」

 カレンが笑みを浮かべ、そう言うと、ゾワゾワ~っと嫌な感じが溢れだして、カイト先生が慌てる。

「 何しようとしているんだ??」

 ニーナとレインをまとめて盾にして、カレンに近づく。

「だぁってぇ。ユージが、我が儘、言わなければいいのよ~」

「わが? 俺が、我が儘か!?」

「好意は受け取るものよぉ~。お金だったら尚更よねぇ~」

 カレンが、フンッと鼻をならす。

「お前らなぁ。わかってるか?? 昨日は、ハート草とか、カール草で安かったけど、薬草でも珍しいものは高いんだぞ。ダンジョンに入ったら、もっと稼げるはず。俺だけにいい条件なんて、おかしいだろ??」


 カレンが、顔を歪めて、ため息をつく。


「何で、思いどおりにならないのかしら??」

 ユージに、渾身の精神魔法が効かないので、不貞腐れた顔だ。

「カレン、やめてやれ」

 カイト先生が、カレンの頭を撫でた。


「意外と、ユージは、強情っと」

 イアンがおどけて言うと、ユージは「なんだよ!」と睨み付けた。

「じゃあ、提案だけど、昨日、兄さんに口座をどうしてるか聞いてみたんだ。ほら、ライアのところは魔道具班だろ。趣味の魔道具作りに金がかかるから、どうしてるのかって。班での稼ぎの半分を班の口座にいれて、残りを六等分しているんだと。

それで、どうだろうか?」

 間髪いれず、ニーナの「いいよ~」という返事が聞こえ、他のメンバーも同意した。

 それなら、ユージも納得らしい。

「その代わり、俺らは、少しでも多く稼ぐ。んで、ユージは仕送り、加減するんだぞ。今後自分で準備するものもあるみたいだ。そのとき、金が足りなかったら、問答無用で班の口座から出すぞ」


 ユージは少し体を後ろに引いて、「わかった」と答えたが、なんとも可愛らしい脅しだ。

 『金がなければ、買ってやるぞ』と脅しているのだから。


「そうと決まれば、薬草取りに行こ~。お金貯めて、町に遊びに行こう!!」

 ニーナが拳を振り上げる。

「おっ!!いいねぇ~」

 イアンもその案に乗るようだ。

 カレンとミハナは元々そのつもりだし、レインは、「町!! 行く!!」と、顔を綻ばせた。



 ユージがカール草を、他の5人は手で摘めるハート草を、午前中のうちに取りつくしてしまった。

 人数も多いし、張り切っていたのだから、当然だ。


「ユージ……。ハートの葉っぱ、ないかも……」


「ハサミ……」


「とにかくこれを売って、お昼ごはんだね」


 事務所でいくらになるか計算してもらったのだが、たいした値段にはならない。2000エルちょっとだ。

 イアンの提案で、12分の1はユージの口座へ、残りでハサミを買う。残りはそれぞれの口座に入れるか迷ったが、個別の口座のお金使ったとしてもハサミが欲しい。どうせ後でまとめるならばと、ハサミを人数分購入するまでは、班の口座にまとめておくことになった。

 ちなみに、この事務所では口座のお金しか使えない。自分達で必要なお金を稼ぐのも、冒険者になるには必要なことだからだ。

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