第17話 一人……?

 宣言通り、早く起き、支度を済ませると、カイト先生と合流するためにミーティングルームにやってきた。

 カイト先生はまだ来ていない。

「カイト先生ったら、お寝坊さんなのね~」

 カレンが目を細めると、イアンが、

「昨日、俺たち遅かったし、置き手紙を残して練習場に向かおう。鐘が鳴るまでには来るはずだから」

と、ノートを一枚破り、練習場に先に行っていると書き付けた。

 練習場につくと、1班の男の子が一人で並んでいる。


 ニーナ達も最大限急いだのに、それより早いとは!!


 何時に着いていたのだろうかと心配になるが、扉の方をじっと見ていて、少しも後ろを振り返らない。


「畜生!!」

 後ろから2班が来て、出遅れたことに悪態をつく。


 ニーナはノートの切れ端に書いた『水』の魔方陣をみて確認している。レインもカレンも確認中だ。ミハナとユージとイアンは、昨日借りてきた魔道書を覗き込んでいた。


 そろそろ飽きてきた頃に、カイト先生が到着し、その後、しばらくして鐘が鳴った。

「あら、あら、あら、毎日早いわね~。十人よぉ」

 1班の男の子が入り、ニーナ達は全員で入った。イアンとユージは『浮遊』の練習をするらしい。ミハナも苦手な魔法を練習するつもりのようだ。

 2班は3人しか入れないことになり、話し合いが始まっていた。



 ニーナが魔方陣を発動し、ミハナに見てもらう。

「ここが薄くなっているから、魔方陣を作るときに集中力を切らさないように。その他は完璧だよ」

「やったぁ~。もう少しで初魔法~!!」

 ニーナが飛び上がって喜んでいると。レインも魔方陣ができていた。

「初めてにしては上手いなぁ~」

 ユージが感嘆の声をあげている。

「ホントに?? もう、ちょっとだね!!」


 ニーナ達が完成に近づいていると、背後から悲痛な叫び声が聞こえてくる。

「浄化!!!」


「浄化!!!!」


「浄化!!!!!」


「うぅぅぅ~!! 浄化ぁぁ~!!」


 最後には涙声になっていた。


 振り返ってみると、汚れたグラスに魔法を掛けているようだ。

 カーシャ先生も「呼ぶのは、出来てからにして欲しいわ~」と、離れていってしまった。


 直角なのではと思うくらい首を曲げ、項垂れている。

 一人では、どこが間違っているのか、わからない。焦れば焦るほど盲目になり、自分の作り出した魔方陣より、汚れのとれないグラスを睨み付ける。

 気ばかり焦り、小刻みに足を動かしていた。

「浄化!」

 乱暴な手つきで作り出した魔方陣では、正しく働くわけがない。

 素早く発動できるよいになるまでは、鍛練が必要なのだから。


 『浮遊』の魔法を練習していたユージが男の子に歩み寄る。

「なぁ」

「うわわぁぁぁ~」

 男の子は大きな声をあげて、腰を抜かした。


 一人で練習場に来ていて、誰かに話しかけられる想定をしていなかったのだ。それが、体格の大きなユージに声をかけれて、度肝を抜かした。昨日、脱衣所でみた雄々しい上半身から、ユージが怖い人だと思っていたせいでもある。


 地面に尻をつけ、ジタバタと足を動かしている。後ずさりしたいようだが、力が入らず、うまくいっていなかった。

「大丈夫か?」

 ユージが助けようと手を伸ばしたが、男の子はその手を取っていいのか迷っているようだ。

 ユージは腰を屈め腕を掴むと、

「俺に魔方陣、見せてみろよ」

と言いながら、立ち上がらせた。

「えっ? えぇ~??」

 怖い人に目をつけられたと、冷や汗を流す。

「いいから、ほら、やってみろ」

 筋肉隆々のユージに殴られでもしたら一溜りもない。仕方がなく、手で円を描いて、魔方陣を発現させた。

 三枚重なった魔方陣。

「え~っとだな。一番上はうまくできているぞ。二番目が、ここら辺が薄いな。慣れないうちは、ゆっくりと発動させたらいい。三番目が問題だ。ここが違っているんだ。ちょっと待てよ」

 そう言うと、ユージは『浄化』の魔方陣を発動させる。見やすいように重なった魔方陣をばらせて見せた。

「魔方陣が、……動いてる……」

「今の俺じゃ、これくらいしかできないぞ。すごい魔道師は、魔方陣を組み合わせて戦うって聞いたがな。んで、問題はこれだ。ここが、ちょっと違うだろ?」

 ユージは魔方陣を重なるように戻すと、「浄化」と唱えた。

 何もないところが、うっすらと光った気がする。

「ユージ、すごい!! 浄化! すごい!! 何か! すごい!!」

 興奮しすぎて、言葉になっていないニーナが、隣で跳ねている。

「ニーナ、『水』ができたら教えてやるから、ちょっと、落ち着け」

 ニーナは頭を撫でられ、少しブスッとした。それでもまだ、興奮は押さえられない。

「それって、水の魔方陣に似てるよね?」

「え? そうだな。綺麗にするってことだから、水を出して洗っているのかもしれないよな」

 『水』の魔法と全く同じではないのだが、ニーナが言うように『水』が関係していることは、間違いないだろう。

 古代文字が読めないので、はっきりしたことは言えないが、『浄化』用に改良された『水』の魔法が組み込まれていた。

「これも『水』に似てるね」

 ニーナが示したのは、一番手前にある魔方陣。『水』の魔方陣とは文字が逆回り。

「『水』の逆張りだな」

 『水』の反対。つまり、水をなくす魔法だ。水で洗ってから、乾かしているのだろう。

「ふ~ん。なんとなく覚えた」

「おぅ! それは、よかった」


 そんなユージとニーナの会話を、キョロキョロと落ち着かない様子で1班の男の子が見ている。

「ほら、ニーナは、あっち。んで、お前はなんて呼べばいいんだ?」

 男の子はスワンというらしい。

 スワンが練習している間に2班が課題1に合格した。

 スワンは真面目な顔で取り組み、練習場が開いている間に合格することができた。



 ニーナとレインは……? 魔方陣は完成したが、カーシャ先生に見せるところまでは間に合わなかった。ちゃんと、発動することを確かめてから、先生に見せるのだ。


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