第16話 ダンジョンにはいない

「ユージいないね~」

 ダンジョンからは様々な人が出てくる。先輩達が多いのかと思ったら、そうでもない。一般の冒険者も沢山いるのだとわかった。

 一般の冒険者は、3~4人のパーティで、先輩達が持っていた台車に、沢山の獲物を乗せて、町に戻っていく。


 学園にあるのは、中級ダンジョン。


 地面の下に広がるダンジョンは、地下へ地下へと延びている。入り口から入った層を、一階とし、階段を下ると二階、三階と深くなっていく。深くなれば、出現する魔物も強くなる。

 ダンジョンの最大階層によって、初級・中級・上級・特級とランク付けされていた。

 入り口には門があり、その門に併設している建物の中には、ダンジョンに出入りする人を管理していた。


 建物の中にいる人に声をかける。

「すいませ~ん。ユージって男の子、見てませんか?」

 引き締まった体型のお姉さんが、対応してくれた。

「貴方達、学園の生徒よね? 学園の生徒は、未成年だけでダンジョンに入れるけれど、それは特例なの。6人揃って、準備もしっかりしていなかったら許可できないわ」


 そのとき、先輩達が出てきた。

「すいませーん。買い取りお願いします」

 他の職員さんが、対応するようだ。

 先輩達の台車が空だったのは、ここで買い取りをしてもらったからだろう。


 買取りを眺めながら、

「じゃあ、ユージがダンジョンに入ったってことは考えられないか」

「ん~。大人が沢山ついていれば、許可することもあるけれど、今日はそういう子はいないわ」

「ここにはいないってことだよね。ありがとうございました」

 そういうニーナにイアンが、

「ニーナ、夕飯が近いかも」

と、空を見上げながらいう。

「お腹減ったよね」

「減った」

「おやつ食べ損ねたわ~」

 ニーナとレインの空腹に、カレンが思い出したように悔しがる。

「おやつなんてあるの?」

 ミハナが、驚いた。

「食堂に聞いてみようか」

 結局、ユージ探しを諦め、カイト先生と別れると、早めに食堂に向かった。


 リサさんに、食事の時間以外でお腹が減ったらどうしたらいいかと聞くと、夕飯を作るために職員はいるから、言ってくれとのことだった。

 今回は、夕飯前だったので、空腹を抱えながら待つことになった。

 「お腹減った~」「お腹減った~」と恨めしそうに厨房を見てウダウダしていると、夕飯を知らせる鐘がなり、我先にと夕飯を確保する。

「ニーナは、どこにその量が入るのかしら?」

 山盛りになったカレーライスをみて、カレンがいう。

「カレーなら食べられるの!!」

 カレーに野菜をトッピングして、健康的な皿が出来上がったミハナは、ニーナの皿を覗き込んだ。

「ニーナ、野菜も食べないと」

「そうよぉ~。大きくなれないわよ」

 その言葉に反応したのは、レインだ。

「野菜も食べないと、大きくなれないの??」

 それに、優しそうに笑うのはイアン。

「レインの場合は、好きなものを沢山食べればいいんじゃないかな? 今まで、ご飯を食べるのも辛かったのだろ?」

「う~ん。目眩が酷いと、吐いちゃうからね~」

 魔力切れ状態では、体調が優れなくて、ご飯をまともに食べられたことがなかった。だからだろうか、レインは華奢だ。

 ミハナが、心配そうな顔をした。

「今は、目眩はしていない?」

「うん。ニーナが常に手を繋いでくれるから、大丈夫。沢山食べて、大きくなりたいな」

「少しづつ、栄養のことも覚えないと体に悪いけど、まずは食べられるようになってよかったね」

 ミハナがレインの顔色を観察している。そのあとニーナの顔を見た。

「ニーナも大丈夫??」

「すんごい、お腹が減るんだよね~」

 動いているからだろうか? それとも魔力が減っているからだろうか?

「それは、健康な証拠だな」

 頭上から声がする。見上げるとユージがお盆を持って立っていた。

「あぁ~!! ユージ!! 探したんだけど、どこにいたの~??」

「え?? なんかあったか?」

 ユージは空いている席に座りながら、申し訳なさそうな顔をする。

 もし、課題のことなどで自分を探していたのだとしたら、申し訳ないことをしたと思ったのだ。

「暇だったから、ユージを探してたの!! 練習場閉まっちゃうから、やることないんだよね。ユージはどこにいってるの?」

 ユージは、スプーンを口に突っ込んだまま固まった。

 申し訳ないと思ったのに、理由が「暇だったから」だったのだ。

 しばらく固まったあと、なんとか咀嚼して飲み下すと、

「面白いところでは、ないぞ」

と、言った。

「面白くなくてもいいから、明日は連れていって~!!」

「え!? いや、いや、本当に、面白くないから!!」

「えぇ~!! ユージ、おねが~い!!」

 ニーナとユージの攻防を、面白そうに見守っていたカレンも、口を開く。

「面白くなかったら、帰ってくるだけよ。教えてくれればいいじゃない」

「だって、だな」

「ぜぇ~ったい、ついていくからね!!」

「そうと決まれば、今日は早く寝て、明日は練習場に並びましょ~」

 胸を張って宣言するニーナに、カレンも乗り気だ。

 そのあと、ユージは、ずっと困った顔をしていた。


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