第15話 暇になった

「ちょっと早いけど、食堂行くか?」

 お昼の時間を示す鐘は鳴っていないが、席に座りながら待っていると、リサさんが声をかけてきた。

「早いなぁ~。昼は、できてないよ。好きな時間に食べたければ、朝、弁当を頼むんだ。早朝出発なら前日予約が必要だけど、朝御飯のときに言ってくれれば、食べ終わるまでには作っておくさ」

 ミーティングルームと練習場を往復しているニーナ達には必要ないが、ダンジョンに入るようになったら、お弁当は必須だ。

「お弁当もいいですね~」

 イアンはそう言うが、ユージは違ったようだ。

「ここで食べたら、食べ放題だろ??」

「ははは。豪快で、いいねぇ。言ってくれれば、大盛り弁当にするぞ」

 リサさんが、大口開けて笑った。

 しばらく、魔道書を囲んで待っていると、お昼を告げる鐘が鳴る。

 誰よりも早くお昼をもらい。お腹いっぱいになるまで堪能した。



「じゃあ、俺は、いくとこあるから」

 そう言って、ユージがいなくなってしまった。

 ミーティングルームで、魔方陣を覚えていても面白くない。

 しばらくすると、ニーナが飽きて足をブラブラ。室内を歩き回り、「魔方陣、実践できないし、つまんなぁ~い」と言い始める。


「ねぇ、ユージ、探しに行かない?」

「ん? ユージ?」

 同じく飽きていたレインも、興味を引かれたようだ。

 ニーナは、さらに続ける。

「学校内かな? それとも外??」


 さすがのイアンですら、暇を持て余していた。ミーティングルームにきたばかりのときには、『浮遊』の魔方陣を紙に書き写していたのだが、実践できた方が覚えやすい。

 明日、実践してみた方が早いと結論を出し、魔道書をペラペラしていたのだ。


「外じゃあ、探せないぞ。それでもよければ、散歩がてら、行ってみるか?」

「わぁ~い」

 ニーナは、素早く魔方陣を書いた紙をポケットにしまう。


 皆も飽きていたのだ。支度をすると、ミーティングルームを出た。

 本を読んでいたカイト先生も、重い腰をあげる。

「先生もついてくるの?」

 ニーナが聞くと、

「ん? 仕方ないだろ?お前が魔力を制御できるようになるまでは、なるべく見張っていろと言われているんだ」

「先生も、大変ですね」

 突っ込むニーナに、イアンがクスクス笑う。

「そう思うなら、早く制御できるようになってくれ」

「カーシャ先生の結界がもっと長くもてばいいのに……」

 ニーナが「もっと練習したいのに」と、ブツブツ言うが、カイト先生は、「あぁ~」っと、宙を仰ぐ。

「カーシャ先生は、昔から変わらないんだ。しょうがないな。まぁ、見守っているだけじゃ、俺だって暇だ。これくらい構わないよ」

 先生が学生だった頃から、カーシャ先生は短時間で魔力がつきていたらしい。

 ミーティングルームからでると、ニーナがレインを引っ張るように進み始めた。

「よ~し!! どこから行こうか??」

 イアンも考えている。

「図書室は、さっき行ったから違うよな」

「時間はあるんだし、いってみようよ」

 校舎の三階にある、図書室に向かう。

 広い室内に所狭しと、本が並んでいた。

 ユージを探しがてら背表紙を眺めていると、魔法関係の本が多いようだ。その他は、魔物や薬草、魔道具と冒険者に必要な本ばかりだ。


「すごいね~」

 本を見ていると、カイト先生が、

「知識で困ったらここだな。でも、本では学べないこともあるぞ」

と、言う。

「ダンジョンってことですか?」

「まぁ、卒業までにはわかるさ」

 ニーナが聞いても、答えをはぐらかされてしまった。



 図書館のとなりは、試験を受けるための教室。その中にはドカリと椅子に座る先生がいた。

 教室を覗き込むと、鋭い目線を向けられる。

「3班か、課題2を合格したという連絡はなかったが、なにしに来た?」

 低い声に、イアンとミハナがビクッとした。

「練習場が使えないんで、校舎内を散策していたんです。課題3は、先生が見てくれるんですか?」

 ニーナが入り口から叫ぶように話す。

 先生は、課題を受けに来たのでなければ、話すことはないらしい。「うむ」と頷くのみだ。

「先生は、なんてお呼びしたら?」

「ゲルマ」

「えぇ~??」

 聞こえなかった。

「ゲルマ……」

「えぇ~?? 先生、聞こえな~い!!」

「カイト!! 何とかしろ!!」


「試験を見てくれるのは、ゲルマ先生だ。先生は、物静かな方だから、静かにしような」

 そう言われたのに、ニーナが叫ぶ。

「ゲルマ先生~!! 試験のときは、よろしくお願いしま~す!!」

 ゲルマ先生は、イヤそうに顔を歪めて小さく頷いた。

「ほらほら、行くぞ」

 カイト先生に促されて、仕方なくニーナ達も立ち去る。


「ほかの班のミーティングルームにはいないよね??」

 校舎の1階と2階は、各班のミーティングルームがある。他には先生方の個室もあった。

「他の班のミーティングルームには入れないから、外に行こうか?」

「どこかな~??」

「男子寮に戻っているってことはないのかしら?」

 カレンが首をかしげる。

「ダンジョンの方は、まだ私たちじゃ関係ないよね?」

 ミハナも考えているようだ。


「とにかく、行ってみよ~!!」

 「おぉ~!!」と自分で返事をすると、ニーナは寮に向かった。

 イアンに寮の部屋を見てきてもらっても、ユージはいない。


 ダンジョンの前まできたが、ユージはいない。


 その代わり、ダンジョンから帰ってくる先輩達とすれ違った。

 先輩達は、動きやすそうな格好で、武器を背中に背負って、台車のようなものを引っ張っていた。

「なんか、格好いい~!!」

 ニーナが目を輝かせると、先輩達が気づいたようだ。フワリと微笑み返された。

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