第14話 魔道書の最後の魔法

 しばらくすると、1班が出てきた。

「楽勝~。あいつは、1班、失格だな。わははは!!」

 出てきたのは5人。

 昨日、後ろの方で申し訳なさそうな顔をしていた男の子がいない。

「おや、おや、3班じゃないか。なんか少ないな」

 そういうと、ニーナと目が合い、

「あれ?」

 ミハナと目があった。

「おまっ!」

 真っ赤になって、今にも怒鳴り付けそうだ。

 ミハナが、そっとカレンの後ろに隠れる。

「ふん!どうせ、出来損ないだからな。せいぜい頑張れよ!」

 鼻を鳴らすと、足を踏み鳴らして校舎の方へ戻っていった。



 十分距離が離れると、ニーナが、

「べーっだ!!」

と、舌を出した。

 カレンも眼を細めて睨み付けると、

「精神魔法、本気で掛けていいかしら?」

と、ゾワゾワしたものを放ち始めた。

「待て待て。魔法で他人を攻撃したら犯罪だ。精神魔法は、許可をもらったところでしか、人には使えない。それに1班に魔法がかかったら、大変なことになるぞ!」

 カイト先生が慌てふためく。


 なぜか、ニーナを盾にするように肩を持ち、ズリズリと押してカレンに近づくと、コツンと小さくカレンをゲンコツする。

 痛くはなかっただろうに、ゲンコツをされたところを撫でながら、

「本気でやっても、ユージにはかからなかったのよ。優秀な1班がかかるわけないじゃない。ちょっとした嫌がらせよ」

と、胸を張った。


「そんなわけないだろ? 他の班に魔法を試すのはやめてくれ。班のメンバーにもやめろよ。後が大変だ」

 ため息を付きながら、カイト先生が呆れている。


 ニーナだって、1班に魔法が有効とは思わなかった。ただ、怒らせて、嫌がらせが増えるのはイヤだなと、漠然と感じていた。


「ところで、なぜカイト先生はニーナを盾にしているのでしょうか?」

と、不機嫌になる。

「カレン、お前……、万が一、俺が魔法にかかったら誰も止められないだろ? お前の本気は、俺でも危ないからな。勘弁してくれ」

「あら、私ってすごいのかしら??」

 一転、機嫌よさげに胸を張るカレン。

「コントロールできればな」

 腰に手を当て、カイト先生を睨み付けた。

「原因がわからなくて、どうにもならないのよ。だから、この学院に来ることになったんでしょ~。何とかしてほしいのは、こっちよ」


 カレンだって困っていた。この体質のせいで、親とまともに話せたことがない。

 学園にきてからは、ふつうに過ごせている。班のメンバーが、魔法にかからないからだ。ユージには、本気を試したが、全く効果はなかった。

 全員に、本気を試すつもりはない。せっかく普通に過ごせる仲間を得たのだから。


 重たそうな扉の音がして、カーシャ先生が顔を出した。

「あら、あら。入ってこないのかしら?」

 ニーナが、待ってましたとばかりに振り返った。

「入っていいですか?」

「あら、あら? さっきの子達に、交代してあげてって、言っておいたのに……、言わなかったのかしら?」


 言われていない。

 まさか、「せいぜい、がんばれ」が、その意味だったのだろうか?

 わかるわけがない、と毒づきながら、ニーナは練習場に入った。

「中に入れるのは、三人よ」

と、カーシャ先生が言うので、ミハナは結界の外から見ていて、主にはカレンが教えてくれるらしい。

 カレンが、魔方陣を展開して見せてくれた。

 ニーナは指輪を外して、右手で魔方陣を描いてみる。


 円を描くと、不完全ながら、光る魔方陣が!!


「うわぁ!! 魔方陣!! でた!!」


 始めての魔方陣だ。いくら挑戦しても現れなかった魔方陣。

 魔方陣を描くって、こんな感じなんだ!!


「おめでと~。魔方陣が途中から消えているから、魔法を唱えないでね。そのまま右手を握って消して。もう一回作ればいいから」

 結界の外から見ていたミハナの言葉に、素直に頷く。

 不完全な魔方陣を発動させたら、なにも起こらない可能性が高いが、予想外のことが起こってしまうこともある。

 ニーナの魔力量で、予想外のことが起きたら、恐ろしい。


 ニーナは右手を握って、魔方陣を閉じた。

「私にも、魔法が使える~!!」

 ニーナの嬉しそうな声が、練習場に響き渡ると、他の班のから訝しげな視線が向けられる。

 特別入学のいない他の班では、初めて魔法を使う学生がいるなんて、想像も出来ないことだ。

 遠くから、1班の男の子が、じっと見ていた。

 扉が開いて、

「なに騒いでんだ?」

 ユージが顔を出す。外にまで聞こえていたらしい。

 イアンは、大きな魔道書を抱えていた。

「あ~!! その本!! うちにあった!!」

 「マジか?」と、驚愕するユージ。

 専門的な、大きな魔道書は高価だ。それが、一般家庭にあることに驚いていた。

 ニーナは当たり前と思っているが、宮廷魔道師の母が集めたコレクションだ。

「その本の最後の魔法、かっこいいの!! 『雷の嵐』って名前がついているんだけど、こんな感じで・・・」


 魔方陣を5枚も重ねて発動する大魔法。

 ニーナは想像しながら、右手を動かした。

 何度も見た、魔方陣。

 寸分の狂いもなく、5枚の魔方陣は発動した。


 魔力を込めていないのに、ピリピリと小さな電気が走っている。

「うわぁぁ~!! ニーナ! 落ち着け!! 右手を閉じるんだ!!」

 カイト先生が、慌てる。

「わかった!! かっこいいよな。でも、まずは、『水』の魔法だろ??」

 イアンも青くなっている。

「一旦それを消そうな」

 ユージまで。

「わかったよ」

 そう言い右手を閉じると、ミハナは真っ青。カレンも目を丸くして、固まっている。

 レインだけが、目をキラキラさせて見てくれていた。

「ニーナ、すごいね」

「でしょ~。ビリビリ~ザァザァ~ってなって、めっちゃすごいらしいの!」

 腰が抜けた、カイト先生とミハナを、イアンとユージが助け起こした。


 練習を再開しようとすると、カーシャ先生が現れる。

「あら、あら、すごい魔力が動いた気がするわ。結界が限界よ。今日は、ここまでにしてちょうだい」

 ニーナは指輪を戻すと、

「カーシャ先生~。時間が足りないよ~」

と、唇を付き出した。

「あら、あら。私も人間なの。しょうがないのよぉ~。だから、貴方に管理者をついでもらいたいの。貴方なら、もう少しもつはずよ」

「また、その話!?」

 ニーナは逃げるように練習場を後にした。

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