第13話 自分たちのペース

 朝起きて、寝ぼけ眼を擦っているうちに、カレンがニーナの髪を結ってしまった。

 プラチナブロンドの髪を編み込んで、ハーフアップだ。

「バッチリね。ニーナの髪は結いやすいわ。ミハナは?」

 ニーナは、「なんか、ありがと~」と寝ぼけた声でお礼を言う。

 ミハナは慌てて、

「わ、私は、自分でできる」

「じゃあ、ニーナは服を着替えるのよ」

 そういうと、カレンは自分の髪を、きれいに一つにまとめてしまった。

 ミハナが慌てて、慣れない手つきで、後ろに一つに縛っていると、

「やっぱりミハナ、私にやらせて」

と、言ったときには、まとめた髪をほどいてしまう。

「ミハナは可愛いから、う~ん。私のリボンを使って」

 大きなリボンを使ったハーフアップ。ミハナの薄い紫の髪によく映える、赤いリボン。

「カレン、すごいね~。ミハナ、可愛い~」

 ニーナが跳び跳ねて喜んでいる。

 ミハナは嬉しそうに頬を染めた。

「今度、ヘアアクセでも買いにいきましょ~」

 カレンの提案に、目を輝かせてミハナが頷く。

 ニーナも「いいねぇ~」と嬉そうだ。

 ワンピースに着替えて、食堂に向かった。



 食堂には、ご飯を食べ終わって寛いでいる、男性陣の姿があった。

「おはよう。お待たせ~」

「おせえよ」

 ユージはそういうものの、怒ってはいないようだ。ニコニコしている。

「昨日、荷物の整理、本当に大変だった~。お風呂、最後だったもん」

「女子は大変だな。それにしても、今日は、気合い入ってんな~」

 ユージが三人を順番に見て言った。

「うん。ニーナ、可愛いね。カレンとミハナも、とっても似合ってる」

 レインが、長い前髪から覗く緑眼を細めた。

「ついでに誉められたみたいだけど、まぁ、いいわ。誉めてくれたから」

 カレンは、朝から腰をくねらせる。

 レインが「へへへ」とニーナに手を差し出した。

 ニーナがその手をとろうとすると、ユージが止める。

「おいおい、朝食くらい、取りに行かせてやれ」

「そうだった。ウインナーが美味しかったよ」

 イアンが厨房の方を見て、

「急いで行ってきた方がいいよ。無くなっちゃう」

「うわぁぁぁ~。ご飯抜きなんて、無理~」

 ニーナを先頭に、バタバタと朝食を取りに行った。



「お腹いっぱい……」

「ニーナは、食べすぎよ~。お昼ごはんだって食べられるのよ」

「わかってるぅぅぅ~」

 レインはニーナと手を繋いで、満足そうに微笑んでいる。イアンは苦笑いだ。


 はち切れんばかりに膨らんだお腹を抱えながらミーティングルームに向かうと、カイト先生が来ていた。

「おはよ~。お前ら余裕だな~」

「そうかしら?」

「はじめの頃は、早く来て、頑張りすぎるもんだろ?」

「そうかしらぁ~?」

「まぁ、僕たちは僕たちのペースでってことで。魔法練習場に行こう」

「はいはい。ついていきますよ」


 魔法練習場に行くと、入り口に列ができていた。

「えっと、いつ開くのでしょう?」

 イアンがカイト先生に聞くと、

「もうすぐ鐘が鳴るだろ? そうしたら開くはずだ」

「じゃあ、ぴったり~!!」

 ニーナが嬉しそうにいう。


 すでに長い時間待っていて、気が立っている学生に睨まれてしまった。


 ガーン、ゴーン、ガーン、ゴーン


 魔法練習場の扉が開いて、カーシャ先生が顔を出す。

「あら、あら、あら。もういたの?」

「よろしくお願いします!」

 挨拶の声は大きく、早く入れろと言わんばかりだ。

「あら、あら、そんなに急がなくても~。結界にはいれるのは十人までよ~」

 ズンズンと1班が入っていく。2班は、少し話し合いをして、四人だけ入った。

 その他の人は、他の場所で待つようだ。


 2班は、課題1に全員合格していない。

 班の全員が合格しなければ、次の課題に進めない。しかもカーシャ先生の独断なのか、学園の方針なのか、一日一つしか課題を見てくれないらしい。

 練習する必要がなければ、魔法練習場に居る意味がない。三つ目の課題が薬草のテストだったから、その勉強でもするのかもしれない。


 3班は、中に入れなかった。

「1班がすぐに出てくるだろうから、待つしかないね」

「俺は別行動でもいい? お昼には戻るよ」

 ユージが言うと、イアンも、

「俺も図書室行ってくる」


「図書室??」

 ニーナが目を輝かせて、ウズウズした。


「ニーナは待っててよ。たしか借りてこれますよね?」

 カイト先生が、肯定したので、

「借りてきてあげるから」

 別行動をしようとしていたユージが戻ってきた。

「魔法の本か?」

「『浮遊』が使えたらって、思ったからね」

 ユージは「『浮遊』か……」と呟いた。

「俺も、そっちに行く」

「じゃあ、ミハナとカレン。魔法の練習、見てあげて」

 急に名前を呼ばれたミハナは飛び上がった。

「えっ!! わぁ、わかった。早く帰ってきてね」


「すんごいやつ、借りてきてね~!!」

 図書室に向かう二人の背中にニーナの大声が届き、二人は顔を見合わせて苦笑した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る