第12話 女子寮は荷物でいっぱい
「広~い」
ニーナの明るい声が響くと、カレンもミハナも同意した。
「本当ねぇ~」
「思ったよりは」
エインスワール隊は、国直属の部隊だ。その活動は、貴重な素材の入手、魔物の討伐、犯罪集団の制圧など多岐にわたる。この国が戦争に巻き込まれれば、戦力として駆り出される。これだけの戦力を抱えるエインスワール王国に、戦争を挑む国などない。と、いうことは、抑止力として大きな役割を担っているのだろう。
それだけ大きな組織だ。後進を育てるための学園にも、大きな予算をさき、十分な施設が用意されていた。
部屋の中を見回して、ニーナが騒ぐ。
「ねぇ! どこにする??」
「私は、あそこがいいわ」
カレンがいち早く窓側を選んだ。
「じゃあ、私はここに」
遠慮がちに廊下側を選んだ、ミハナ。
「ミハナは、本当に窓側じゃなくていいの?」
ニーナが聞くと、ミハナは部屋の中を見て、
「う~ん。じゃあ、あの使っていない机、窓際の真ん中に置いてもいい?」
余っている机を移動して、窓際に置き、好きな人が使っていいようにするようだ。
なんとか三人で持ち上げて、移動してから荷物の開封作業を始めた。
女子三人の荷物の量はすさまじく、しばらくかかってしまう。
「えっと、入らないかも……」
(お母さんったら、さすがに送りすぎだよ。)
エインスワール学園への入学を認めなかったニーナは、自分で荷物を用意しなかった。その代わりに母が箱に詰めてくれたのだ。
「ニーナったら、本当にたくさん、持ってきたのね~。あの使っていないところを使ったら?」
「使っていい??」
そういって、空いている棚に詰めていく。
「私、自分で荷物用意しなかったんだよね~。最後まで、エインスワール学園に入学なんて嘘だ! って、騒いでいたから。ちゃんと荷物、用意すれば良かった~」
「そういえば、ニーナは特別入学だったね」
ミハナが、ニーナの荷解きを手伝ってくれる。
「私、女学院、受けたの。そしたら、エインスワール学園の入学書類が届いた!」
「そんなシステムなんだ……」
驚いているミハナに、カレンが、
「私の入学は、一年前に決まっていたのよねぇ~」
「えっと、そんな前から、カレンの魔法は問題になっていたんだ」
「私が、問題を起こしたのは五年前よ」
「そ、そうなんだ……」
聞きたいような、聞いてはいけないような……。
ニーナもミハナも聞かなかった。
「ニーナ、服、可愛いわね」
二人が気を使って口をつぐんだことなど気にせず、カレンはニーナの荷物を覗き込む。
「女学院の制服がよかったって、駄々をこねたら買ってくれたんだけど、今思えば、お母さんに悪いことしたかな」
「もう買ったものは、仕方ないじゃない。それより、おしゃれしましょ」
ニコニコ嬉しそうなカレンを、不思議そうに見るニーナだった。
片付けをすませてお風呂に行くと、すでに空いていた。
一日色々あって疲れていたし、慣れない大浴場だったので、すばやく入浴をすませて部屋に戻ってくる。
廊下を歩いている間に、117期生1班の部屋が目に入った。
自分たちの部屋に入り、扉を閉めると、ニーナが、
「なんで、1班って、あんなに意地悪なんだろ?」
「本当に嫌な人たちよね~。ニーナは小柄で可愛らしいけど、チビじゃないわ~」
「カレン・・・。イライラが、ぶり返してきたかも」
チビと言われたことも、忘れかけていたのに……。
カレンは胸を張って、
「出来損ないは、否定しないわ~」
それはニーナも否定できない。学園を受験できるような勉強はしていない。
母が宮廷魔道師だったから、本はたくさんあった。自然と読み書きは覚え、ある程度の計算はできる。母が眠るまで魔法について話してくれた。だから、最低限の知識はある。
それでも、本気で何年も、勉強してきた子には敵わない。
「学園って、たぶん、1班から成績順なんじゃないかって言われているんだ。本当かどうかはわからないけど、あの様子だと、本当なのかな?」
ミハナが呟いた。
やはり、普通に入学した身としては、少しでも上位にいたいという欲があった。
でも、なんとか勉強して、ギリギリ合格できた自覚がある。
合格しただけでも十分だと、ミハナは自分に言い聞かせていた。
「そうなの~?? でも、ミハナもイアンもユージもいい人だから、これでよかった~」
ニーナの明るい声が、沈みそうになるミハナに届く。
「そうだね。3班でよかった」
ミハナは可愛く笑った。
「もう疲れたから、寝よ~」
ベッドにダイブするニーナにカレンが、
「 髪を乾かさないと。明日、髪型が決まらないわ。可愛くできないわよ~」
「え~!! めんどくさいよ~」
「また、チビって言われてしまうわよ」
「うぅ・・・・。」
ニーナが文句を言っている間に、借りてきた魔道具でカレンが乾かしてくれた。
「私が、応用魔法まで使えればよかったんだけど……」
ミハナが申し訳なさそうに言う。
「魔道具、借りられたから、大丈夫!! それに、私は、明日から、もりもり特訓するんだ!!」
魔法の練習が楽しみでたまらなかった。
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