第11話 男子寮の恋ばな
ユージが、名残惜しそうなレインをつれて、寮の部屋に向かった。
扉を開けると、部屋は広い。ベッドが右と左に二台づつ。それぞれ壁に頭を向けて置いてあった。その両側に勉強机と、個人用の棚。そこが個人のスペースということだ。
荷物はまとめておいてある。持ってきた量には、かなりの差があるようだ。
イアンの荷物の量が普通なのだろうか。レインとユージの荷物はほとんどなかった。
「なぁ、イアン。お前って、『風』の魔法使えるか?」
ユージが部屋を見回してから言う。
「『風』なら使えるけど、何でだ?」
「ベッド移動して、三人分並べようかと思って」
イアンが納得したように大きく頷いた。
「んで、レインが真ん中に寝るわけだな」
「そういうことだ」
夜中に魔力が必要になったとき、真ん中に寝ていればどっちに触れてもいい。
レインは二人の顔を順番に見ていた。
ユージは、ハッとしてイアンを見る。
「もしかして、『浮遊』の魔法が使えたりするか?」
「さすがに『浮遊』は、まだだな」
「そりゃ、そうか」
『浮遊』の魔法は、応用魔法だ。ダンジョン探索者の上級者にはよく使われる魔法で、その名の通り、ものを運ぶときに便利だ。逆に上級者でなければ使えない魔法だ。
「じゃあ、『風』で補助しつつ、力仕事だな。レインも手伝えよ」
「うん! もちろん!」
レインは嬉しそうにベッドに手を掛けた。
「待て、待て。あの机からだ」
壁際に置いてあった棚と机をどかし、ベッドを壁に寄せる。両側、壁にくっつけたら、反対を向いていたベッドを間に入れた。机も三人分並べ、棚もまとめて置く。
個人のスペースはなくなってしまったのだが、この際仕方ない。
レインが不自由なく生活できる方が大事だった。
「まぁ、レインが慣れてきたら配置替えしてもいいしな」
「そうだな。夜は俺らだけだから、少し不安だったんだ。このほうが、安心できるな」
「僕は、ニーナと同じ布団でも良かったんだけど……」
ユージとイアンはギョッとした後、苦笑いだ。
「さすがに、男女一緒の布団は、許されないだろ。レインはよくても、ニーナがいいのかわからないし、女の子の気持ちは難しいぞ~」
ユージが笑う。
「そうなの? 僕、友達いなかったから」
ユージがレインの頭を撫でて、
「これから覚えればいいだろ」
「ユージ、お前って、面倒見いいよな」
イアンが言うと、ユージは「兄弟多いからな」と答えた。
レインとユージの荷物は本当に少ない。すぐに片付け終わり、イアンの荷物が片付く前に、寝具の準備なども終えてしまった。
「あっ、待たせたね」
「おぅ! 風呂行こうぜ!」
着替えを片手に大浴場に向かう。
脱衣所で服を脱いでいると、1班がちょうど出てきたところだったが、上着を脱いだユージを見て黙ってしまった。
しっかりと筋肉がつき、古傷がいくつも見えた。
「ユージがいれば、大丈夫~」
と、楽しそうに歌うレインに、二人とも笑ってしまった。
すでに空いてきている湯船に並んで浸かっていると、急にレインが話し始めた。
「僕、ニーナと、ずぅっと一緒にいたい。ギュッてしたいんだけど、変かな?」
「えっと、それは、魔力が美味しいからとか、そういうことか?」
イアンが必死で考えている。
「魔力は美味しいよね~」
レインは、素直に答える。
イアンは意を決して気になることを聞いた。
「レインはニーナが好きなの?」
「そうなの?」
驚くレイン。
「一緒にいたくって、……っていうか、一緒に布団に入りたいって、そういうことなんじゃねえの??」
うっすらユージの顔が赤いのは、お風呂が熱いってだけではないだろう。
「う~ん。じゃあ、そうなのかなぁ~」
好きだとして、押し付けて嫌われては元も子もない。
特にレインにとって、ニーナは代わりのいない子なのだろうから。
レインの恋路を応援するのも、俺らの役目なのか?? と思いながらもユージは、
「これから三年間一緒にいるんだし、嫌われないように、少しずつ仲良くなればいいんじゃないかな」
と、優しく諭していた。
同い年なのに、小柄で子供っぽいレインが、弟のようで放っておけなかったのだ。
「そうだよね。嫌われたら困る~!!」
今、気がついたかのように、目を見開く。
「そうだよなぁ」とイアンも同意する。
「レインの場合は、好き嫌いの問題の前に、魔力の問題があるからなぁ~」
「レインは、いままで、誰か好きな人はいなかったの?」
イアンが聞くとレインは考えた。
「お母さんは好きだけど、迷惑かけちゃったから」
デリケートな問題に触れてしまったようだ。
「えっと、それは、体質でってこと?」
申し訳ない気持ちでいっぱいになったのだが、レインは気にした風ではない。
「うん。二人は好きな人いるの??」
「えぇ! いや! べつに!!」
大きな声が浴室に響いたのはイアンだ。
「あっ、いるんだな」
イアンから、「聞くなよ」という雰囲気が漂ってくる。
「そういうユージは、どうなんだよ」
「俺は、今はいないね。昔、探索者のお姉さんに憧れたことはあるけど」
「くっ、なんか大人……」
「ユージは、大人~」
レインの歌声に、ほんわかした。
「レイン~!!」
ユージがバシャーっと飛沫を上げてレインにじゃれつく。「ひゃー」っといいながら、レインはイアンに助けを求める。
イアンは笑いながら、レインを受け止めた。
レインは、思った以上に細かった。
誰もいなくなった湯船で、しばらく騒いでしまった。
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