第10話 3班で良かった
恥ずかしそうに顔を歪めて、視線をそらすイアンに、
「イアンが学園に詳しいのって、お兄さんがいたからなんだね」
ミハナが、フォークに突き刺したブロッコリーを、口に運びながら言う。
イアンは肉をつつきながら、苦いものでも飲み込んだように顔をしかめる。しばらく、無駄に肉をつついていたが、観念したかのように口を開いた。
「それもあるけど、うちは両親ともにエインスワール隊だったんだ。父さんの方は未だに現役だよ。だから、期待が重くって」
「ちゃんとエインスワール学園に入学できたんだから、いいんじゃないの?」
ニーナが口に肉を含んだままモゴモゴ言うと、イアンは顔をしかめた。
「ただ入学すればいいんじゃないんだよ」
「卒業しなくちゃってことかしら?」
カレンも、よくわからないという顔で首をかしげている。
特別入学の二人には、たくさん勉強してきたんだろうなってことはわかっても、実際、イアンが感じている気持ちはうまく理解できなかった。
ミハナが、「あの~」と恐る恐る口を開く。
「私とは状況が違うから、もし、違ったら、ごめんなさい。
イアンは、1班に、こだわりがあるんじゃないかと思うの。1班の方が優秀だって、聞いたことあるから………。でも……、さっきから、1班って、意地悪ばっかり。私、ちょっと3班で良かったって、思い始めてるんだ」
考えるように視線をあげたイアンと視線があったミハナは、優しく微笑んだ。
「1班に入るために勉強したんだけど……」
最後の肉に勢いよくフォークを突き刺し、口に入れた。
「お前、自分が、あの中にいること考えろ。俺は嫌だね」
ユージも、残り一口になったご飯に視線を向けたまま、同意する。
イアンはしばらく考えた後、フワリと笑った。
「それは、確かに。俺も嫌かも」
「だろ~」
一度笑ったものの、まだ浮かない顔だ。
「はぁ、親に何言われるか……」
エインスワール学園では、申請すれば、親が会いに来れる仕組みがあった。
「そんときは、一緒に行ってやるよ」
最後の一口を口にいれユージが言うと、ニーナも小さく手を上げながら同意する。
「私も一緒に行く!!」
「はは、まぁ、ちょっと、気が楽になったよ」
イアンがスッキリした顔をしたので、
「とにかくお盆を片付けよう」
とユージが言った。
席を取られてしまわないように、順番にお盆を返しに行った。
食堂は、楽しそうに談笑する声で溢れている。班のメンバーで話しているところもあれば、どうもカップルらしいところもある。
ごはんを食べている間、離していた手をレインに差し出す。
レインは嬉しそうな顔で、ニーナの手を握った。
「ニーナの魔力は大丈夫か?」
ユージが席に戻ると、すぐに聞いてきた。
「魔力が少なくなってきたらどうなるの? 全然わからないんだけど」
元々、魔力が多いメンバーは、魔力が少なくなったことがない。皆、「う~ん」と唸るなか、ミハナが口を開いた。
「本で読んだんだけど、目眩がしたり、頭痛がしたり、酷くなると体に力が入らなくて、動けなくなるみたい。頭が痛かったりしていない?」
ニーナは少し考えた。
「う~ん。何ともないよ」
異変がないか探ってみても、特に異常は感じられなかった。
「じゃあ、ニーナの魔力で十分ってことかな?」
イアンがいうと、ユージが「でも」と切り出す。
「俺らも仲間なんだし、こうやって、普段からくっつくようにしようぜ」
そういいながらレインと肩を組んだ。
レインは、嬉しいような恥ずかしいような顔をしている。
「あれ? レイン? さっきみたいにスーってしないんだけど」
ユージが不思議そうにすると、レインはいたずらがバレた子供のような顔で、ニヤッと笑った。
「へへへ。今は、魔力いっぱい」
それに、ニーナが驚く。
「えぇ~!! じゃあ、手を繋いでいる必要なかったってこと?」
ニーナが手を離そうとすると、レインはギュッと握る手に力を込めた。
何でもないことのように、レインは答える。
「ニーナの魔力は美味しいから、繋いでるんだよ」
レインはニーナの瞳を覗き込むように、ニコリと笑った。
ニーナの魔力は、レインに気に入られたようだ。
「ん~、なんか恥ずかしい気もするけど、仕方ないっか」
ツンと顎をあげたニーナの頬は、うっすら染まっている。
レインは今まで大変だったのだ。魔力食いの体質のせいで、普通の子供のように駆け回って遊べなかったし、ずっと体調が悪いままだった。本を読んだり、勉強したりもできないし、魔法に触れることもできなかった。
元気に働くことも考えられなかっただろうし、明るい未来も想像できなかっただろう。
実際、話し方は子供っぽい。弟のようで庇護欲が掻き立てられた。少しくらいのわがままなら、許してしまう。
「ところで、夜はどうするの? ニーナとレインで同じ布団ってわけにはいかないんでしょ~」
カレンが、頬杖をついて気だるそうに言う。
色気が漂う。
「俺が隣に寝ようと思っているけど、部屋ってどんな風になっているんだろう?」
ユージがイアンを見るが、イアンもそこまでは知らないようだ。
部屋に運び込まれた荷物も片付けなければならないし、早めに解散することになった。
男子寮と女子寮でわかれるとき離したニーナの手を、レインが名残惜しそうに見ていた。
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