第9話 チビって言うな!

 ガーン、ゴーン、ガーン、ゴーン。


 夕食の時間を知らせる鐘が鳴る。

「それじゃあ、そろそろ、寮を案内しよう」

 廊下を通ると、他の班はすでにミーティングルームには、いなかった。

 校舎の裏口から外に出て、屋根のある渡り廊下を通っていく。


「すぐそこが、寮だよ。皆の荷物も部屋に運び込んであるよ」

 カイト先生の指差す建物は、一階は広く、二階より上が二棟に分かれている。


 中に入ると、広い空間に机と椅子がたくさんあり、すでに夕飯を食べる学生で賑わっていた。

「ここが、食堂。左が男子寮で、右が女子寮だ。部屋は4人部屋だから、一人分余るが、それぞれ3人で使ってくれ」

 カイト先生は、奥に向かって大きな声を出す。

「リサさん!!」

 学生の様子をキョロキョロと眺めながら現れたのは、細身で長身の女性だ。エプロンをしているが、何と言うのか、あまり似合っていない気がする。蹴りでも放ちそうな、強さと鋭さがあった。

「カイトか。あんたが先生になるなんてねぇ~」

「そんなこと、いいだろ~。それより、こいつら3班なんだ。よろしく頼むよ」

「あぁ、こいつらが例の?」

 カイト先生は、全員紹介してくれた。

「今はいないが、もう一人、ユージっていう子がいるんだ。鐘も鳴ったし、すぐに来るだろう。それで、特に注意が必要なのは、カレンだ」

 腰に手を当て胸をそらして、カレンが反論する。

「あらぁ~、私よりレインやニーナの方が大変なのではなくって?」

 ニーナと同い年だと思うのだが、カレンは大人の色気がある。

「ここでは、一般の職員も働いているんだ。カレンが直接話しかけるのは、気を付けてくれ」

 精神魔法垂れ流し状態のカレンでは、一般人には魔法をかけてしまうらしい。

「あぁ、カレン。私は大丈夫だ。寮母の私は、エインスワール隊所属だからな」

 そう言うと、肩を回した。


 リサにはエプロンより剣が似合いそうだと思ったのは、正しかったようだ。

「課題についても、アドバイスくらいはできるから、色々聞いてくれ」

「はぁ~い」

 ニーナの明るい返事が響いた。

「おっ! いい返事だね。腹が減っているだろ? あそこで夕飯を受け取って、好きな席で食べればいいんだ。おかわりは自由だよ」

 リサさんに言われたとおりに夕飯をもらい、それをお盆にのせ、六人まとまって座れる場所を、なんとか探して座った。


 それを見届けたカイト先生は「また明日、ミーティングルームで」といって、食堂から出ていってしまった。

 食べ始めていると、ユージがお盆を持って現れ、空いている席に座った。

「あっ! ユージ! 大盛りじゃない??」

 ニーナがユージのお盆を覗き込む。

「言えば、多くしてくれたぞ」

「え~!! 言えば良かったかなぁ~?」

「ニーナはその体で、たくさん入るのですね」

 カレンが、まじまじとニーナの顔を見た。そのあと、視線は胸元へ向かった。

 ニーナは、胸の前で腕を組む。

「カレン~? なんか余計なこと考えてない~?」

「えっ? 余計なことかしら? 成長期なのかなって、思っただけよ」

 確かに身長も低いし、幼児体型と言われても仕方がない。

 イアンとユージは苦笑い。ミハナはオロオロし、レインは何のことかわかっていない。

 ニーナは一度膨れたが、「むぅ」と唸るだけで、気にしないことにした。

「お代わりすればいいよ。僕も行こうかな」

 レインが落ち着いた様子でいう。

「まっ、無料ただだしな」

 ユージは、無料ただを強調して、嬉しそうだ。


 エインスワール学園は学費はない。エインスワール隊からの予算で経営されている。生徒が課題で採ってきたものを売却したお金も学校に入るので、経営は問題ない。


「僕も、今まで、体調が悪くて食べられなかったし、今日は食べられるかも」

 レインは、どんどんと食べ進めていく。スプーンで口に運んで、二~三度噛んだら飲み込んで、フォークで肉を口に入れ、飲み込む前にスープを口に入れ、

「ごほっ!!」

 レインがむせた。


「おいおい、レイン。急に食べすぎると、腹が痛くなるぞ。これから、ずっと食べられるんだ。ゆっくり食べろ」

 ユージは、レインの頭を優しくなでた。

 レインは涙目になって、頷いた。


「おやおや~。3班じゃないですか~??」

 ねっとりとした、声が頭上から降ってきた。

 先生がいないから確信はないが、たぶん1班。

 一番偉そうなやつが、ふんぞり返って見下している。

「そんな食べ方するなんて、貧乏人の集まりか? 大盛りに、掻き込み、それにチビ!!」


 食べ方にチビは関係ないと思うのだが、チビと言われたニーナは膨れた。


「うわ! チビがフグになった!!」

「チビって言うな!!」

 ニーナが食いついても、ニヤニヤ笑っている。

「チビが吠えた~!」

 ゲラゲラ笑いながら、「せいぜい、ごゆっくり~。もう行こうぜ~」といなくなってしまったが、一番後ろをついていく小柄な男の子は、申し訳なさそうな顔をしていた。


 イアンが口を引き結んでいると、明るい声が降ってきた。

「イアン~。君も3班だったんだね~」

 優しげで穏やかな声だ。どことなくイアンと似ているような。

「あぁ、兄さん・・・」

「あっ、皆は始めまして。115期生3班のライアだ。よろしくね」

「はぁ~い」

 ニーナの声が響く。ライアは目を丸くしてから、優しげに微笑んだ。

「可愛らしいお嬢さんだね。僕らは、魔道具班なんだよ。困ったことがあったら教えてね」

「魔道具班?」

 ニーナが首をかしげる。


 ライアが教えたくれたことには、魔道具製作が得意な人だけで構成された班らしい。

 魔力量が多く、魔法を良く使うエインスワール王国では、魔道具の需要が他の国に比べて少ない。

 それでも、魔道具好きとは生まれるもので、その中でも知識量、技術共に、エインスワール学園の基準を越えた学生だけが選ばれる。魔道具があまり使われないエインスワール王国では、それほどの才能の持ち主は希で、六人の班を作ることができるのは二年に一度ほど。

 実際、ライアも、合格してから班のメンバーが集まるまで一年待ったらしい。


「僕たちは、この学校では変わり者なんだ。変わり者の方が相談しやすいこともあるだろ?」

 そういうと、爽やかに笑う。

「それと、これが本題。イアンは、真面目過ぎるところがあるけれど、いいやつなんだ。イアンをよろしくね」

 そういうと、ニカッと笑って手を振りながら、自分の班のメンバーのところに戻っていった。

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