第7話 将来の魔法練習場管理者
魔力練習場は、すぐそこだ。中から、呪文を唱える声が聞こえてきた。
ニーナは、赤い顔をなおそうと、深呼吸を繰り返す。
「まぁ、からかうなって。魔力食いのことは、レインにしかわからないんだ。もしかしたら、大事なことかもしれないだろ?」
嗜めるユージに、カレンがまっすぐ視線を合わせる。
カレンから、なにかゾワゾワするものが吹き出しているような、変な感覚がする。イアンとミハナ、カイト先生が、カレンから離れるように後ずさった。
「レインが嬉しそうだから、気になっただけじゃない。それより、手を繋ぐって仲良さそうでいいわよねぇ。私と手を繋いでくれないかしら?」
カレンがユージに向かって手を差し出した。
ゾワゾワするのが強くなる。
ユージは片手をポケットに突っ込んだまま、
「別に、手を繋ぐくらいお安いご用だけど、精神魔法が効くかどうか、試してるんじゃないだろうなぁ?」
「あら? やだぁ~。やっぱり掛からないのね。本気でやったのに」
「はぁ」
ユージが、大きくため息をついた。
「意図的にやるなよ」
「だぁってぇ、レインが面白いこというんだもの。それに、私にも構って欲しいじゃない」
カレンが頬を膨らませた。大人っぽいカレンがやると、なぜか色っぽい。
「面白いことって、魔力の味のこと? 人によって、魔力の質に、違いがあるのかな?」
ミハナが、前半はカレンに、後半はレインに向かって聞く。
カレンは、面白そうに口角を上げて頷いた。
「僕は、美味しいか、普通かしかわからないよ」
レインは、ただ事実を述べているだけ。イアンが、後頭部に手をやり、悩みながら答える。
「人によって、魔力の質は違うんじゃないかな? ミハナは回復魔法が得意だろ? そういう魔力の質なんじゃ?」
「それなら、納得かも。回復魔法は難しいって言われるのに、実は初めから使えたの。他の基本魔法の方が、苦労したくらい。攻撃魔法は、まだ使えないし」
ミハナは、肩を落とした。
「班はバランスを考えて決めたっていうし、得意不得意が噛み合ってるんだろ? だから、そこまで気にする必要はないと思うけどな。まぁ、とにかく入ろう」
ユージがそう言うと、魔法練習場の扉を開けた。
扉の分厚さに驚いていると、中では2班のメンバーが魔法を使っていた。
円柱形の練習場に一歩足を踏み入れると、武骨な石壁がむき出しで地面は土。高いところに窓があり、明るい光が差し込んでいるにもかかわらず、少し薄暗かった。
建物の内側には透明の壁があるように見える。手で触ってみると、固い。
「うわ! 3班がきたぞ!! 俺らはあっちでやるぞ!」
2班のメンバーは奥の方へ移動して、背中を向けてしまった。
「あら、あら、あら、あら~」
石の壁と透明な壁の間を、初老の女性が歩いてきた。
「やっと3班がきたのね~。私は、ここの管理者よ。カーシャっていうの。魔法の課題は、私に見せてね。私も人間だから、ちゃんとお休みをもらうわ。空いているかどうかは常に確認しておいてね。ところで、ニーナちゃんって、どの子?」
急に呼ばれて、ニーナは返事をしながら手を上げた。
「あら~。なんて可愛らしい子。あなたには、将来、私の後を継いで、ここの管理者になって欲しいのよ~」
「ぅえぇ!!」
急な話の展開に、ニーナが目を丸くする。
「あなたほどの魔力の持ち主は珍しいから、いい結界が張れると思うのよね~。ここの仕事は楽よ~。生徒が来ているときだけ結界を張って、課題を見て上げれば、後は何をしていてもいいのよ~。本を読んだり、刺繍をしたり、絵を描いたり、ボーッとしてもいいわ。とにかく、この建物から一歩も出なければいいの。魅力的でしょ~」
カーシャ先生の話を聞いている間に、ニーナは一歩、二歩と後ずさっていた。
小さい声で、「無理、無理、無理、無理・・・・」と本音が漏れている。
隣で手を繋ぐレインには、よく聞こえた。繋ぐ手に力が入る。
「ニーナ、大丈夫?」
「私、一日中、同じところにいるなんて、無理!!」
「あら~、そんなことないわ~。大人になれば平気になるわよぉ~。特別課題は、クリアしなくていいわよ。そうすればニーナちゃんは、ここの管理者ね」
「無理、無理、無理、無理・・・」
ニーナは、うっすら涙目になっていた。
こんな薄暗いところで、ずっと過ごすなんて、絶対に無理!!
ニーナは、派手な魔法が好きなのだ。魔力があるとわかったのだから、魔法ををバンバン打って、戦ってみたいのだ。
「特別課題を合格すれば、いいんじゃないかな?」
レインの落ち着いた声。
「まぁ、そんな先のこと言ったってしょうがないよな」
ユージが、レインと肩を組む。レインは大きく頷いてからニーナを見た。
まだ、課題は始まったばかり。メンバーにも、今日、始めて会ったのだ。
「とりあえず、魔法の課題をやりたいんですが」
イアンがカーシャ先生にいうと、「人が多いから順番にしてちょうだい」と言いながら、すぐに結界に穴を空けて中に入れてくれた。
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