第6話 魔力の味?

 班のメンバーで進めると言うことは、誰かが仕切らなければならないということだ。

 エインスワール学園に詳しそうなイアンに、皆の視線が向いた。

「イアンは、学園に詳しいの?」

 イアンは、「まぁね」と呟いただけで、それ以上話をしない。

 無言のまま、テーブルの真ん中に課題の紙を広げておいた。


 全員が取り囲むように課題を確認する。


 

 三年間で68の課題。そのうち3つが書いてあった。

 事前に全てを教えてくれるわけではないらしい。

 カイト先生に聞くと、「課題を事前に知って計画を立てるのも大事だし、急なことに対応できることも大事だ」と言われた。


「とにかく、やってみないとわからないよね。魔法練習場に行ってみようか?」


 皆の視線が、ニーナの指輪に向かっている。そのあと、同意の声が聞こえた。


 1番目の課題は『水』の魔法。


 その名の通り、水を作り出す魔法だ。

 十ある基本魔法の中では、物質を作り出す魔法の難易度は中程度。薬草採りなどで山に入ることもある。はぐれてしまったとしても、命を繋ぐための魔法が一番に来ていた。


 ちなみに2番目の課題は、『浄化』。


 手や衣服などを洗浄することができる。衣服は洗濯の効果に比べると少し劣るものの、魔法だけである程度、清潔さを保てるのである。

 基本魔法の中では難易度は高めだ。しかし、生活の中で使いやすいようにと、確立された形式がある。便利すぎで、皆が必死で覚える魔法の一つだ。




 ニーナはレインと手を繋いで歩いていた。レインは魔力を分けて貰えるのが嬉しいからだろうか、デレデレと笑う。下を向くと長い前髪で顔が隠れてしまうが、隣を歩いていれば端正な顔つきをしていることがわかる。


 たまにニーナの方を向いて微笑むのは、感謝を伝えているのだろうか?


 ニーナは、ちゃんと支えてあげようと思った。


 校舎の裏口から出て左を見ると、ゴツゴツとした石造りの魔法練習場が見えた。すぐに、1班とすれ違う。

 メンバーの顔を覚えていたわけではない。バルド先生がいたから、1班だとわかったのだ。


「おやおや~。これは、これは、出来損ないの3班じゃないか

? 今から練習場って、はっはっは」

 先頭を歩き、1班で一番偉そうにしているやつが、指を指しながら笑う。

 ここでも先生は口を出さないらしい。バルド先生もカイト先生も、特に注意するでもなく、すれ違った。


 特別入学がいるから、出来損ないなどと言われてしまったのだろうか?

 悔しそうに唇を噛み締めるイアンの目には、うっすらと涙が溜まっているような気がした。


 変な空気を変えようと、ミハナが後ろから声をかける。

「私は『水』の魔法は使えます」

 それに答えるようにユージもカレンも使えると言った。


 ニーナは魔法を使ったことがないし、レインも魔法を使えるような魔力は今まではなかった。

 魔力量が、生きるか死ぬかの瀬戸際だったのだから。


「使える人に、教えて貰えばいいよね!」

 ニーナの明るい声が、3班に爽やかな風を運んだ。


 ニーナは魔法が好きだ。使えないのに、なぜ好きなのかわからなかったが。

 基本魔法を組み合わせた、応用魔法の本などは良く読んでいた。


 基本魔法については、派手でもないし、どうせ使えないし……。あまり、ちゃんと学んだ覚えがない。


「『水』の魔法は、ちょっとだけ難しいんだ。レインとニーナは、魔法、初めてなんだろ? 本当は『熱』の魔法とかの方が覚えやすいんだ。そこからやるか?」


 小さい子に魔法を教えるときは、『熱』の魔法から教える。覚えやすいということもあるが、『熱』の魔法が使えると、色々な職業に就きやすいからだ。コックや鍛冶屋などの火を使う職業には必須で、生活でもお風呂を沸かしたり、食事の用意をしたりと使い道は多く、エインスワール王国の住民のほとんどが使える魔法だ。


「う~ん。どう難しいかもわからないんだよね。一度教えてよ」

 ニーナの手をギュッと握るレインは、どことなく機嫌がいいようだ。

「レインはどうする?」

 ニーナが聞くと、

「僕もニーナと一緒でいいよ。やってみて決めるよ」

 ニコニコと嬉しそうなレイン。カイト先生に紹介されたときには、どんよりと暗そうだったから、今、穏やかに笑っている姿に和む。


「レインは、楽しそうねぇ。いいこと、あったのかしら」

 カレンが小走りで前に出ると振り返り、妖艶な笑みを浮かべ、レインを見上げた。15歳とは思えない大人っぽい仕草に、レインが足を止める。

「えっと、僕、ニーナの魔力が好き。美味しいんだ」


「・・・・・!」


 美味しいとは??


 その言葉の意味を考える。魔力食いの感覚などわからないのだから、誰も美味しいの意味はわからない。


 ニーナは、自分に言い聞かせていた。


(レインは、魔力が好きと言ったの! 深い意味はないの!)


 言い聞かせているのに、ジワジワと顔に熱が籠るのがわかった。


「あらぁ、熱烈ねぇ」

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