第4話 魔力はあった

 不安そうな顔をした男の子の頭を撫でながら、言い聞かせるように話し始めた。

「いいか? お前らだったら、仲良くできると思うから、任せるんだ」

 カイト先生は、皆の顔を見回した。確かめるように頷くと、男の子の肩に手をおいた。

「こいつは、レイン。魔力食いだ」

 目線がレインに集まる。レインは下を向いてしまった。


 しばらく沈黙が支配する。


 ニーナは、意味がわかっていなかった。


 恐る恐るイアンが口を開く。

「でも、魔力食いって、その、元々の魔力が少ない人が多くて、え~っと、あの……」


 傷つけないで話そうと思うと、言葉が出てこないようだ。


「普通は家族や近所で支えられる程度だな。それでも犯罪者に身を落とすものは多い」


 ニーナが見回すと、皆は困惑の表情を浮かべている。

 ニーナは、首を傾げた。

「レインは魔力量が多いから、普通には生活できなくて、エインスワール学園で保護させてもらった」

 ぎこちなく頷く皆を見回しながら、ニーナが惚けた声を出した。

「魔力食いって何ですか?」


「へ?」

 カイト先生が気の抜けた声を出した。

 レインに向いていた全員の視線が、ニーナに集まる。

「ニーナは、知らなかったのか?」

 カイト先生に聞かれて、素直に頷く。


 普通に勉強していれば、知っていることなのかもしれない。特にエインスワール学園の生徒には常識の範囲内だった。

 彼らは、小さい頃から家庭教師をつけたり、受験用の学校に通ったりしていて知識多い。


 ニーナは、魔法が使えなかった時点で諦めてしまい、勉強という勉強は、ほとんどしてこなかった。母がうるさく言わなかったからというのもある。

 ニーナの魔力量を知っていて、エインスワール学園に特別入学になると確信していた節があるのだから、勉強くらいは強制でもやらせて欲しかったと、少しだけ母に腹を立てる。


「ちょうどいいから、確認の意味も込めて説明するぞ」

 そう断ると、レインの頭を撫でた。その瞳には優しい光が灯っている。


「魔力食いは、一万人に一人いるかどうかと言われている稀な体質で、体内に魔力をためておけない体質なんだ。原理は解明されていないが、体内の魔力をどんどん消費してしまう。補充し続けなければ、体内の魔力が枯渇して死んでしまう。

まぁ、死んでしまう前に、魔力枯渇の渇望感から、他人の魔力を無理矢理奪い、殺人者になってしまうことも多いのだ。

魔力食いを集めた犯罪集団もいるくらいだ。レインが健全な生活を送るためには、魔力を供給できる仲間が必要だ」

 そう言うと、頭を撫でていた手を離し、レインと手を繋いだ。

「こうやって触れていれば、魔力を渡すことができる。効率は落ちるが服の上からでも大丈夫だ。体内魔力が十分にあれば、しばらくは大丈夫なんだそうだが、そこら辺は、お前ら班のメンバーで探っていってくれ」

 沈黙が支配する。

 レインは、ますます下を向いてしまった。

 ニーナは、深刻な顔をするメンバーの顔を順番に見た。

 イアンとミハナは青い顔をして、ユージは苦い顔をしている。カレンだけは、レインを観察していた。


 ニーナは、ポカンとしたまま思ったことを口にする。

「何で、そんな、深刻なんですか?」


 イアンが、レインをチラチラ見ながら、

「だって、魔力食いって、すごく大変な体質なんだぞ」

「え? 何で?」

 確かに大変な体質なんだろうけれど、そんなに悲観する理由がわからない。

「魔力を常に供給しないとならないんだ。家族全員で一人を支えられるかどうかだ。それが、レインは必要な魔力が多いんだろ?」

「うん。カイト先生、そういってたね」

 それは、ニーナも理解した。

「俺たちで、どうやって支えろっていうんだ……」

「なんで?」

 ニーナは思いっきり首をかしげた。まだ知らないことがあるのかもしれない。

「僕たちは、魔力を渡しながら、魔法の勉強もしつつ、ダンジョン攻略もしなければならないんだ。それが、どれだけ大変なことか、特別入学の貴女には、わからないんだよ」

 イアンは、ぶっきらぼうに言い放った。


 ニーナが、両手をギュッと握って食らい付く。

「えぇ?? わからないよ! だって、私は魔力量がヤバイんでしょ。自覚ないけど! 魔力食いが大変な体質だって解ったけれど、逆に魔力があれば問題ないってことだよね? どうせ普段は魔法を使えないんだし、いくらでもあげるけど?」

 ニーナは忌々しい指輪をチラリと見る。これがあるから魔法が使えないなんて、考えたこともなかった。


 レインが顔を上げて、ニーナを見た。

 イアンは、申し訳なさそうにレインを見る。

 

「実は、俺も魔力は多いらしい。だから、よろしく」

 ユージが、大きな手をレインに差し出した。その手をオズオズと握る。

「あぁ、面白い感覚だ。スーッとする」

 ユージが、繋いだ手を見つめて言う。

 レインはビクッと手を引っ込めようとしたけれど、ユージの大きな手が、ガッチリと握ったままだった。


「えっ?私も!!」

 ニーナが席を立って、レインの腕に抱きついた。

 レインは、ニーナの方を見て赤くなる。

「わぁ~!! ほんとだぁ~。私にも魔力ってあったんだ!!」

 明るい声が、部屋の中に響き渡った。

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