第3話 班決め

「さて、これで全員揃ったな。私は、この117期生の1班を担当するバルドだ」

 それから先生の紹介が続く。


 2班の担当は女性としては背が高い、マリア先生。鍛え上げられた筋肉まで美しい。

 3班の担当は、細身で優しそうなカイト先生。それまでの二人と比べると、頼りなくみえる。


「我が学園では特殊なカリキュラムを採用してる。皆には、班に分かれて、67ある課題に1から順番に挑んでもらう。すべて合格できれば、卒業の資格を得ることになる。卒業できれば、国有数の魔道師部隊のエインスワール隊に在籍することになるぞ。このとき、班のメンバーとパーティーになりたければ、68番目の特別課題に合格することだ」

 

 バルド先生の話はまだ続いているが、ニーナはどうでもよくなっていった。

 冷めたように教室の端から、先生を見つめる熱のこもった瞳を見回している。


 卒業したらエインスワール隊になるなんて、素直に喜べない。


 エインスワール隊と言えば、有名なパーティは絶大な人気がある。エインスワール隊の広告塔も勤めている彼らの活躍は広く知られている。

 魔法の使えないニーナにとっては雲の上の存在だ。

 そんな部隊に入隊できることなど、夢のようで現実味がない。どこかでつまずいて、卒業できないのではないだろうか。


「それでは、1班から名前を呼ぶぞ!」

 ピリッと空気が張りつめる。

 順番に六人が呼ばれ、バルド先生と共に教室から出ていった。

 小さくガッツポースをしながら、得意そうな顔をしている子もいる。




「では2班!」

 マリア先生の高い声で呼ばれたメンバーが、教室を出る。

 1班に比べると、静かに教室を出ていった。



「それでは、残りは3班だ。3班のミーティングルームへ案内しよう。そこで自己紹介だ」


 カイト先生につれられて、廊下に出る。カイト先生は黒髪の細身の男の子に付き添っていた。

 ミーティングルームは1班から順に並んでいるようだ。中から、話し声が聞こえる。


 117期生3班と書かれた扉を、カイト先生が滑るように開けた。

 広過ぎず狭過ぎず、落ち着く大きさの部屋には窓があり、優しい光が差し込んでいる。全員が座れる大きなテーブルは使い込まれた暖かみがあり、全員分のロッカー、いくつかの棚は物を入れられるのを、今か今かと待っているようだった。


 班で課題に挑むって言っていたが、一日中この部屋にいるのだろうか?

 来るつもりのなかった学校では、予備知識もなくわからないことだらけだ。


「それでは、3班のメンバーを紹介するから、適当に席について」

 中央に立ったカイト先生が着席を促す。隣には付き添っていた黒髪の男の子を座らせた。


「さて、まずは班についてだが、エインスワール学園では全員のバランスを見て班を決めている。バランスが悪くなるくらいなら、半年入学を待ってもらうほどだ。だから、この班は最適なバランスだ。もちろん他の班も。誰かの足りないところは誰かが補えるはず。仲間を大切にして頑張るように」

 頼りなさそうなカイト先生が、安心感のある話し方をしている。

 ニーナはまっすぐにカイト先生を見つめ、魔法が使えなくても補ってくれるのかな?と考えていた。

「まずは、イアンとミハナとユージだ。それぞれ、知識量、回復魔法、実践経験が優れているところだ。性格とかは、追い追い仲良くなってくれ」

 思った以上に簡単な紹介だ。

 イアンは真面目そう、ミハナは可愛い、ユージは体格がいい。

 紹介が早すぎて、受けた印象はそんなものだ。

 


「んで、3班は特別入学がいるんだ」


 特別入学なんて聞き覚えがなかったが、何を指しているのかすぐにわかった。

 ニーナはエインスワール学園を受験していないのに、入学許可証が届いた。


「特別入学が沢山いて、大変と思うかもしれないが、相性は抜群だぞ」

 カイト先生は、楽しそうに話す。

「まずはカレン」

 カレンは、栗色の髪に青い瞳。大人っぽい美人さんだ。

「カレンは、気がつかないうちに精神魔法を使っている」

 全員の視線がカレンに向いた。ニーナは、ポカンとした顔で首をかしげたが、他のメンバーには緊張が走った。

「え? ちょっと待ってください。それじゃあ、僕らもかかるんじゃ?」

 イアンが声を上げる。

「魔力量が多いとかからないから、ここにいるメンバーは大丈夫だろう。魔力が減っているときだけは気を付けてくれ。つぎは、ニーナだ」

 全員の視線がニーナに刺さる。「どんな問題があるんだ?」と視線が物語っている。

「ニーナは稀に見る魔力量で、まぁ、数値化は出来ないが大体俺の二倍以上はある」


 ニーナは思い出す。

 女学院の受験のとき、水晶に手をかざしてなにか計っていた気がする。そのあと水晶から煙が出るという変な現象を起こして、立ち会った先生が慌てていた。

 あれは、魔力量の測定をしていたのではないだろうか。


 カイト先生だって現役のエインスワール隊。一般人に比べて魔力量はかなり多い。その二倍以上とは……。


 先に呼ばれた三人、つまり、ちゃんと受験して入学してきた三人が、あんぐりと口を開けた。

「私、魔力量なんてわからないです。だって、魔法を使えないんです」

 ニーナが言うとユージが訝しげな顔をして、いや、皆、首を傾げている。

「あぁ、それは、暴発を防ぐため、魔法を使えないようにする魔道具を身に付けているはずだぞ」

「え? あの、罪人がつける首輪とか腕輪とか?」

 拘束するためにつける、飾り気のない装身具のことだ。

 ユージが、気の毒そうにニーナを見る。

「あら? どこかしら?」

 カレンが興味深々な様子で、ニーナの首もとを覗き込んで「ないわよ」と言う。


 ニーナには心当たりがあった。


 沸々と怒りを覚える。


(確かに、暴発して怪我をさせたり、家を壊したら大変だけど!!!

 魔法が使えないことには、それなりに悩んでいたのに!!)


 自分の左手に視線をおとすと、おもむろに指輪を外そうとする。

 母さんが「大事なものだから、肌身離さずつけておくように」といっていた指輪。


「あぁぁああぁぁぁ!! 待て! 待てぇぇ!!! 魔法が制御できるようになるまでは、魔法練習場でしか指輪は外しちゃいかん!!」


 ニーナはピタリと止まる。


 大粒の汗をかき、青い顔で焦っているカイト先生をみて、そんなに不味いのかと唖然とする。

 ニーナが指輪を元の位置に戻すと、カイト先生はテーブルに両手をついて肩で息をしていた。


「そんなにヤバイんですか?」

「赤ん坊の頃に、自宅を吹っ飛ばしている」

 家にあった魔道具に魔力を込めすぎて、暴発させたそうだ。


 えっと……。ものすごい、白い目で見られている気がするんですが……。


 ニーナは、皆の顔を順番に見回した。


「私に記憶はありません!」

「それほど小さいときって、逆にヤバイんじゃ……」

 誰の呟きだったのだろうか?


 赤ちゃんのころが一番魔力が少なく、からだの成長と共に魔力も増える。成人となる18才あたりで頭打ちになるのだ。


 赤ちゃんの頃に建物を吹っ飛ばしたということは、今の魔力量は、その数倍。しかも制御できないなんて、大問題だ。


「そのかわり、カレンの精神魔法は絶対にかからない」


 そう言うとカイト先生は、隣にいる黒髪の少年の頭を撫でた。

「それと、こいつはもっと稀有な体質だ。しかもニーナとは相性がいいぞ」

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