第23話 探針

 翌日のお昼すぎになって、タイガとイラストリアは、魔王の気配をとらえるべく、ナナの高校のそばまで来た。


 実はもっと早く古道具屋を出発したかったのだが、あっちの世界に買い出しに行って戻ってきたサリー婆が、タイガたちの仕事が遅いと、あっちの偉いさんにさんざんディスられたとの事で、かなりお怒りで帰って来て、くどくど説教をされていて遅くなってしまった。

 

「でもイラ。杖使わなくても結構歩けるじゃねえか」

「ああ、これね。

 マナがちょっとあるから、小出しに前方照射して状況を把握してるの」

「はは……コウモリみたいだな。賢者コウモリ」

「馬鹿! でも、もう少しマナが自由に使えたらな……」


 もう、正午は回ってしまっているが、学生たちはまだ学校内におり、試しに学校を一周回ってみたが、魔導コンパスはずっと学校の方を指していたので、この中に魔王エリカがいるのは間違いなさそうだ。


 しかし、一体どいつだ?


「なー。なんも感じないだろ?」

「そうね。いくらマナが少なくて魔力行使出来ないっていっても、こんなに何も痕跡が見えないものかしら? 

 何かの魔力障壁に隠れてる? いやいや、それこそ膨大なマナが必要だわ」


「という訳でさ。一発頼むわ!」

「馬っ! 一発って……何、下品な事を!」

「えっ? 何勘違いしてるの? 一発って、探針ピンガーの事! 

 何期待してるんよ……」

「はいっ? あ、ああ、そうね。探針ピンガー

 もう、あんたがいっつもエロい事ばかり言うから……。

 でも今のマナ保有量だと本当に一発勝負よ。

 微細なシグナルでも見落とさないでね」

「そりゃ、任せとけ!」


 イラストリアが直立して詠唱を始めると、彼女の体幹にマナが収束していくのがタイガには手に取る様に感じられる。

 へーっ。この短期間で結構集めたなと、ちょっと感心した。


魔導探査アクティブソナー!!」


 カーーーーーーーン!!


 掛け声とともに、イラの身体からマナが360度全方向に放出された。

 これが魔力的なものに当たると、レーダー波のように跳ね返って来て、その対象物の場所が特定出来るのだ。


「反応有り! 二時の方向、仰角27度、距離130m。

 急いで! 5分位は反応が持続するから、近づけば貴方でも分かるわ!」

「了解!!」

 タイガは学校内に駆け込み、イラストリアが指示した場所を目指した。


「それにしても……何て小さい反応。これが魔王? 

 変な小魔獣だったりして……」


 マナを使いきってしまい、周りの確認もおぼつかなくなったイラストリアは、その場に腰を下ろし、タイガが戻るのを待った。


 ◇◇◇


 新学期二日目。


 短縮日程ではあるものの、今日からもう授業が始まっている。

 お昼休みのあとの講義は一番眠い。

 教室窓際の後ろの席で、ナナはおおいに船を漕いでいたが、エリカも深層でぐっすりとお昼寝中だった。

 

 その時。

 カーーーーーーーン!!


 エリカは、いきなり後ろ頭をどつかれた様な衝撃を食らって、眼を覚ました。

「なんだー!? って、今のは魔導探査アクティブソナーか? 

 一体全体、どういうこった……」

 マナを一瞬拡散させて魔族の居所を探るのは、人間の魔導士やエルフの常套手段だ。だが、この世界で、誰がこんな事を……。


 状況を探る為、表に出たいのだが、今出ると二発目で引っかかる可能性が高い。

 エリカが見るに、一発目の探針ピンガーは確かにエリカに届いたが、それで反射されたマナは、ほとんどこの深層に吸収されている様に思う。

 これだと、探査をした相手にマナが反射して戻らないため、エリカの位置を特定するのは難しいだろう。

(はは。これがステルスってやつか? こないだテレビで見たぞ)


 エリカは、しばらく表には出ず、今少し深層で周囲の様子を探ろうと決めた。


 ◇◇◇


 ナナがうとうとしながら、教室の後ろで船を漕いでいたら、いきなり教室のドアがガラッと開いた。


 大きな音がしたので、ナナがその方向を見ると……あれ? あの人……。

 昨日ぶつかった人じゃない? 何でここに?

 あー、もしかして、クラスメートなの!?


 そんな妄想をしていたら、その男が叫んだ。

「くそー! エリカ! どこだーーー」


「えっ?」ナナは突然の事にびっくりした。


(ねえ、エリカ・・・・・・ちょっといい?)

 深層に呼び掛けてみるが反応がない。

 男は、一直線にナナの方に歩いて来る……。

(えー。エリカ! なんかまずくない?)


 その男がナナの眼の前で立ち止まった。

「あれ? 君は、昨日の……いとしの君?」

「はいっ?」


 その瞬間だった。

 教室の外から男の先生や警備員がなだれ込んできて、その男を押さえつけた。

「うわっ。ちょっと待ってくれ! 

 俺は、その娘に……その子に用があるんだー!」


 しかし、その男は、警備員さん達に連行されていった。


「来宮さん……あの人、知り合い?」

 担任の先生がびっくりしながらナナに尋ねた。


「あの……昨日の通学中に道端でぶつかったんですけど……。

 どこの誰かも知らないです」

「なるほど。ストーカーって訳だな。君も気を付けないとダメだよ」

 そばにいた男の先生がそう言って、ナナから昨日の状況を聞いていった。

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