第24話 逮捕
手持ちのマナを使い果たし、周りの状況が全く見えないイラストリアは、校門近くの道端にしゃがみ込んでいた。
しばらくすると、ファンファンとサイレンの音が目の前を通過し、またちょっとして、そのサイレン音が目の前を逆に通り過ぎた。
「あれっ? タイガ……今、連れて行かれた?」
タイガも、わずかではあるが空中のマナを常に吸収・代謝しており、イラストリアには彼が移動するのが分かる。でも、何でタイガが……?
しかし困ったぞ。タイガがいないとなると、こりゃ動けないわ。
ああ、マナに頼らずもう少し杖で歩く練習をしておけばよかった……。
イラストリアは、幼い頃から賢者を目指し、魔導士見習いから始めて15年後、賢者に昇格した。
そして賢者の称号を得るにはマナを貯めるオドを体内に持つ必要がある。
しかし、それは人間には生まれつき無いものであり、なんらかの身体の機能とトレードオフして生成するしかなかったのだ。
何とトレードオフするか……いろいろな先輩達の意見を総合し、視力をオドとトレードオフすることに決めた。
マナが使えれば眼で見るのとほとんど変わらない知覚が使えるという判断だったのだが……まさか、マナの無い異世界に来るはめになるとは……。
「あの……大丈夫ですか?」
少女の声がしたが、当然、顔は分からない。
「ああ。ありがとう。
私、杖で歩くの慣れてなくて……ちょっと立ち往生中なのよ」
「あー。その白い杖‥‥‥目がご不自由なのですね? お手伝いしましょうか?」
「えー、いいの? それは本当に助かるわ。
私、鎌倉大仏の近くの白樺堂って言う古道具屋に下宿しているの。
そこまで導いてくれると本当に助かるんだけど……」
「来宮さん。鎌倉大仏だとちょっとあるよね?
私、今日、塾なんで手伝えそうにないの。
タクシーとか呼んだ方が良くない?」
「長谷川さん。それじゃ、私がこの人案内するよ。
私一人でも大丈夫だから……江ノ電も乗り慣れてるし……」
「ナナはやさしいね……それじゃ、ごめん。頑張って!」
そう言って、長谷川と言う子は、その場を離れた。
「えっと。来宮さんだっけ……本当にいいの?
さっきの人が言ってた様に、タクシー? でもいいんだけれど」
「えっと……今日、短縮授業で、うちの手伝いまでまだ時間に余裕あるし。
それに、私も前に人に助けてもらってうれしかったんで……。
出来るお手伝いはしたいなって……」
「ありがとう。それじゃお言葉に甘えるわね」
そしてナナは、イラストリアの手を取って、ゆっくり歩きだした。
◇◇◇
エリカは、その様子を深層からずっと伺っていた。
(なんだこいつ……人間にしては違和感を感じる。
表に出て様子を見てみたいが……さっきの探針絡みだとまずいし……。
まっ、ナナに対する敵意はなさそうだし、少し様子見るか……)
◇◇◇
長谷駅から北に向かって歩き出した頃、少しはマナも貯まって来たのか、イラストリアも、ぼんやりながら視界が回復してきた。自分の手を引いてくれている少女は、身長150cm位の小柄で華奢な少女で、髪は全体に短めだ。目も大きくはないがつぶらで、美人というよりは、小動物系の可愛さがある。
「あなた、来宮ナナさんでいいのよね?
私はイラストリア。仕事で最近鎌倉に来たの。
でも、こっちの生活に慣れなくてね。
これからもお友達になってくれるとうれしいな」
「あっ、はい。私でよければ……
こちらにいらしたばかりなら、今度、江ノ島とかご案内しましょうか?」
「わー、うれしいな。来宮さん、RINEとか使える?」
「はい……この間、スマホ買ってもらいましたんで……。
でも、まだ使いこなせない」
「はは、私も数日前買ったんだ。まだ使いこなせないけどね」
「あはっ、おんなじですね。ナナでいいですよ。私の事」
「そっか。じゃあ私の事は、イラって呼んで」
◇◇◇
その頃、深層では。
意気投合するナナとイラストリアを尻目に、エリカは気が気ではなかった。
長谷駅あたりから、イラがマナを使いだしたので、エリカにはすぐに分かった。
(こいつ、オド持ちだ!
という事は賢者クラスだよな……しかもこの魔力波動……。
って、おい! 自分でイラストリアって名乗ってんじゃん!
よりにもよって、あたいの身体を灰にした張本人じゃねえか!
……だが、これではっきりしたぜ。
昼の探針といい、勇者共が何か狙って
っても、まっ……あたいが狙いだろうな)
古道具屋に着いたが、だれもいなかった様なので、そのままイラを部屋に置いて、ナナは店を後にした。
エリカは、ナナにどうやって状況を説明したものか悩むが、今日の感じだと、今後も当面あいつとの接触は避けらそうにない。
そうなるとナナはウソ付けないし、事情を知らないほうがいいかもな。
深層に隠れている分には、多分あいつにあたいは探知できない。
そのうちあきらめて、他に行くのを待つのが上策か……。
◇◇◇
ナナがイラストリアを古道具屋に案内した日の深夜。
「このすっとこどっこいが! 何、警察に迷惑かけてんだよ!!
おかげで、今日の昼から、あたしも振り回されっぱなしだよ!」
サリー婆が、タイガとイラストリアを正座させ、延々と説教をしている。
ナナの学校に突入したタイガがストーカーと間違われて警察沙汰となり、サリー婆が持てるコネを総動員して、なんとか釈放して貰えた。
「わかってんだろうね。あちこち手をまわしたんで、えらい散財だよ!
この請求書は、エルフ王国側に回しておくからね!!」
「はい……宜しくお願い申し上げます……」
何とか夜明け前にはサリー婆の説教も終り、二人ともしびれた足を引きずりながら、寝床に入った。
「まったく。もっと慎重に行動しなさいよ、脳筋バカ!
しかも私までほっぽったまんまだったし……」
「仕方ねえだろ。お前が五分とか焦らすから……でもなー、あの娘がいたんだよ!
昨日ぶつかった、愛しの君……」
「馬鹿!! それでストーカーと間違われたんでしょ!?
でもね、私も素敵な子と知り合っちゃった。
その子、眼の見えない私を、ここまで手を引いて案内してくれたのよ!!」
「へー。そりゃすごいな。
だが、これからやり方考えないとな……同じ方法は何度も使えなさそうだし。
あー、畜生。もうちょっとだったんだけどなー」
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