第21話 再起

 リヒトとの闘いから半年。

 エリカとナナは、児童福祉施設での新生活に慣れようと頑張っていた。


 当初ナナは、この身体はもうエリカのものなので好きにしていいと言ったのだが、まあ三年後にどうなるかは分からないとはいえ、ナナに人並みな人生を経験させたいというエリカの気持ちも強く、話合いの結果、一日交替で表と深層を入れ替わる事とした。

 深層にいると外の様子は見えないが、会話や気配は分かるので、なるべくナナの生活がうまくいくようにと、エリカは表にいる時も、ナナの立場で行動する様心掛けた。


 その甲斐あって、施設内の他の子ども達とも仲良く出来る様になり、ナナもだんだん明るくなってきた様に思える。

 エリカにしてみれば、三食がちゃんと食べられて風呂にも入れ、布団で寝られるだけで万々歳なのだが……おやつまで出るぞ、ここ。


 そして今日、児童相談所の吉村さんが来て、九月から学校に行く手配が完了したと教えてくれた。

 ナナのような者でも、寄付金や補助金、奨学金などで高校へ行かせてもらえるのだが、正直、もう死んでしまっていて三年後には消える身なので、学校は……とナナは難色を示した。まあ前の学校での嫌な思い出もあるのだろうが……。


 しかし、これもやはりエリカが

「誰であろうと、いつかは死ぬと分かっていても、それまでは一生懸命生きるのが当たり前だろ」と強く主張して、ナナを説き伏せた。


 ナナも、吉村さんが持ってきてくれた制服を見てちょっと嬉しそうな感じがしているし、よかったんじゃねえか。

 まっ、仮に学校でまた何かあっても、今度はあたい付きだ!

 ヘタはうたねえぜ!


 ◇◇◇

 

 新学期。


 表のナナは新しいブレザーに身を包み、駅に向かって走っている。


 正直、またいじめられたりしないか不安だったりもする。

 でも、今はエリカが付いているし……。

 リヒトや芳野にも勝てたんだ……なんとかなるよね。


(ああ、大船に乗ったつもりでOKだぜ! 

 あたいはあんまりあんたの邪魔しない様、深層の奥で昼寝でもしてるから……。

 好きにやんな)


 もう少しで学校だ。あの角を曲がれば、見えるはず……。

 ちょっとワクワクもしながら角を曲がったその時だった。


 ドンッ!!

 きゃっ! 


 出会いがしらに誰かにぶつかって、ナナは後ろ向きに倒れそうになったが、ぶつかった相手が瞬時に抱きしめてくれて、頭から倒れる事を免れた。


「あー。すんません! よそ見して歩いてた……」

「いえ、私こそ……いきなり角曲がっちゃって……」

 ナナが声の主を見ると、精悍な顔つきの若者がいて、自分はしっかり抱きしめられている。


「あ、あの……もう大丈夫ですから……離していただけませんか?」

「あっ! あー、すんません。大変失礼を……こんなだから、いつも仲間からセクハラの脳筋バカとか言われちゃうんっすよねー」

「あはっ、そんな。

 あなたが抱きしめてくれなかったら、私、後ろ頭から転んでました。

 お礼こそ言え、脳筋バカだなんて……」


「はははははー、なら良かった。

 それじゃ、可愛いお嬢さん。俺は人探ししてますんで、これで……」

 そう言いながら青年はその場を立ち去った。


(なんだー。何かあったか?)

 寝ぼけたような声で深層からエリカがナナに話掛けた。


(ううん、何でもない。転びそうになったのを助けてもらっちゃった! 

 結構、カッコいい人だったよ!)

(そっか……そりゃよかった……アオハル、アオハル……)



 一方、ナナを助けた青年は、まだ近くをうろうろしていた。

「くそー。魔導コンパスの針はこの辺でぐるぐる回るんだが……。

 それっぽいのいないよなー。ほんとに使えるのか、これ?」

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