第20話 協力者

「蒸し暑いな……。ここでいいのか?」

「私には分からないわよ。ほとんど周りが見えないし……でも、こっちの世界。

 全くマナが無いという訳ではなさそうね。これなら時間はかかるけどオドには少しずつ溜まりそう」

 イラは人間ではあるが、体内にマナを貯める器官、オドを持っており、こちらの世界でも、少しずつならマナを貯める事が出来る様だ。


「そうか……イラは結構なオド持ってるんだよな。

 でも、それも視力が代償だったんだが。

 俺は、空気中の奴を直接使うしか出来ないけど……。

 で、つるがおかはちまんぐうって書いてあるぞ。たぶん」

「だったら当ってるんじゃない? 

 地脈の太いところに転送装置つなぐって言ってたから」


 勇者タイガと賢者イラストリアの二人が、鎌倉の鶴ヶ丘八幡宮の一の鳥居のところに現れたのは、七月初めの蒸し暑い夜だった。


 幸い、エルフに施してもらった言語術式は問題ない様だ。

 文字も読めるし、周りの人が何をしゃべっているかも分かる。

 さてと、まずは協力者のところに行かないと……。

 エルフにもらった地図で確認するが……大仏ってなんだ?


 道行く人に教えてもらいながら、眼がほとんど見えないイラストリアの手を引いて、タイガは、なんとか鎌倉大仏の近くにある、白樺堂という古道具屋にたどり着いた。


「ここでいいんじゃないか? 白樺堂」

「…………」

「どうしたイラ。周りが見えなくて疲れたか?」

「……初めて手をつないだ」

「……はっ、はははは……。

 ごめんくださーい!」

 そう言って中に入ると、小さな老婆が出て来た。


 いやー。見た目は限りなく百歳とかに近いよな……というか、あれ……このばあさん、エルフか。耳までしおれていて、見た目は人間とほとんど変わらんな。


「あのー。私達、エルフ王国の転送装置で来たもんなんですが……サリーさん?」

「…………」

「あのー。聞こえてます?」

「…………」

「耳が遠いのかな? サリーさんですかー!!」


「聞こえとるわい!! 耳元でどなりなさんな! 

 にしても、そんな話、ついぞ聞いちゃいないんだが……」

「はは……あのですね……」

 タイガは、今までのいきさつをサリー婆に説明した。


「……という訳で、魔王エリカの魂を捕まえるご協力をお願いしたいのですが」

「嫌だね」

「へっ? そんな……サリーさんってエルフ王国の協力者なんですよね?」


「誰がそんな事言ったんだい! 

 あたしゃ、あの国が嫌でこっちに隠遁してるんだ。

 それを何かにつけて、利用しやがって……全部タダじゃないからね! 

 しかも、こんな目の悪いモンまで駆り出して……。

 あんた、オドを得る代償に視力を差し出したのかい? 

 ……可哀そうに。

 とりあえず、うちにいていいが、宿代は貰うからね……。

 それに、これじゃ杖が無いと危なくて道も歩けないだろ。

 明日、用意してやるから……ああ、全部あっちの金でいいからね。

 来月、あっちに買い出しに戻るから丁度いいわい」


「あの……サリーさんは、あちらとこちらを自由に行き来出来るのですか?」

 イラが尋ねる。

「ああ。今時こんな芸当が出来るのは、あたしと上級魔族位のモノだろうがね」


 ◇◇◇


 その夜は、白樺堂の二階の一室に、二人で泊まる事になった。


「まったく、とんだ強欲ババアだな。

 二人を別の部屋にしてほしいっていったら、別料金だとよ。

 まあ、手持ちも無限じゃねえし、節約しないとな」

「だからって、近寄るんじゃないわよ! 変な事したらただじゃ置かないから!」

「しないって! 俺は、どっちかというともっと少女っぽいのが好きなの!

 アラサーのとうの立った賢者とかは、もうおかん判定だろ?」

「まだアラサーじゃない! この脳筋バカ!

 でも、この感じなら、ある程度マナが溜まれば、少しは周りも見える様になるかも……そうしたら少しは手伝うわね」

「ああ、そうしてくれ。さっさとエリカの魂とっ捕まえて帰ろうや……」

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