第8話 友達
「ちょっと待って下さい、先輩。全員で小平芳野を回したって……。
あの子は僕のコレなんですが……?」
そういいながら、リヒトが小指を立てた。
「知るかよ。お前に言われた時間に体育倉庫に行ったら、小平芳野とその取り巻きが、全員素っ裸で転がってたんだぜ。
今回のケジメに、お前が仕込んだんじゃないのかよ。
おかげで、たっぷり楽しめたけどな。
だから、今回の詫び金はチャラにしてやんよ」
リヒトはすぐに芳野と連絡を取り詰問した。
「……」芳野は無言のままだ。
「ねえ、芳野さん。どういう事なの? 来宮ナナはどうしたの!?」
「……言えない。しゃべったら、殺される……」
「それって、来宮に脅されているって事? なんであんな生ゴミに……」
「言えない……でも、私が好きなのは、リヒト君だけだよ! 信じて!」
「へー。何言ってんの。他の男とヤッちゃった女が、僕の彼女の訳ないでしょ?
もう、金輪際、口利かないでくれるかな」
「いやっ。待って、リヒト君。あれは……」
「知るかよ……」
くそ。どういう事だ。まさかあの生ゴミが芳野達に勝てるとは思えないが……。
誰か協力している奴でもいるのか?
それともこの一ヵ月位で相当の武術を身に付けたとか……。
はは……無い無い。
芳野は、最近少しウザかったんで、手が切れて丁度良かったが……。
まあ金周りは良かったし、いろいろ使えたんだがな。
早速、他の手足探さないと。
そういや、こないだ粉かけてきた二年の先輩。
どっかの社長の娘とか言ってたっけ……。
だが、来宮ナナをこのままには出来ないぞ。ちゃんと潰さないと……。
そんな事を考えながら、望月理人は、次の打つ手を考え始めた。
◇◇◇
体育倉庫で乱交パーティが催された翌日。
小平芳野とその取り巻きは、学校を欠席した。
まっ。しゃーないかな。
リヒトも聞きたいことは山ほどあるだろうに、全くエリカに近づいてこない。
それがかえって不気味ではある。
あんな事までやってしまった手前、本当に何があったのかをちゃんと知らないと対応を誤るとナナを説得し、昨晩、ナナはようやく、今まで学校で何があったのかを話してくれた。
去年の春、来宮ナナは、畑山高校に入学し、そこで一人の友達が出来た。
その子の名前は、村山ほのか。
栄養状態の悪いナナと比べ、ほのかはちょっとぽっちゃりした性格のおっとりした子だった。
最初ほのかが、いじめの標的になった。
いじめの首謀者は、もちろんあの芳野だ。
最初は、上履きを隠すとか体操服を濡らすと言ったところから始まり、ほのかが性格的に反抗したり出来ない事もあり、どんどんいじめの内容がエスカレートしていった。
ナナは、純粋に友人としてほのかをかばい、芳野を諫めた。
そうしたら、今度は、ナナがいじめの標的になった。
でも、ナナはこれでほのかがいじめられないのならいいかと思ったらしい。
自分は、いつも母親に叩かれているし、こんないじめくらいは何でもない……。
そうは言っても、夏休みは学校に行かずに済むので気が楽だった。
そして、夏休みも終わろうという最後の日曜日。あまりに暑かったので図書館に避難していて、夕方家に帰ったら、高橋がいて、母親と行為の真っ最中だった。
慌てて家の外に出たが、あの時のお母さんの眼がとても怖かったのが忘れられない。
外でぶらぶらしていたら、お母さんが呼びに来たが、そこで突然、もう高校生なのだから食事も服も自分で稼げ。お母さんもそうだったと言われた。
そして家に入ると高橋がまだいて、ナナは無理やり男性を経験させられた。
九月の新学期。夏休み中、鬱憤が溜まっていたのだろう。
しょっぱなから芳野のいじめが始まった。
先生に相談しようか何度も悩んだそうだが、桂浜先生はまだ新人で、まったく頼りにならなそうではあった。
それにヘタに芳野に勘繰られて、またほのかに矛先が向くのもまずい。
そうしていたら、リヒトが声をかけて来た。
ナナがあまりに貧相で貧乏くさい為か、ハイエナの様に近づいてきたのだろう。
例のアルバイトを持ちかけて来た。それに、リヒトと仲良くなると、芳野のいじめもなくなると言われた。
それなら、自分はどうせ綺麗な体でもないし……リヒトとチャンネルが出来るのは悪くないのではないか? そう思い、リヒトのアルバイトを引き受けた。
だが……怖くなった。
正直、十代の男子は、高橋と比べても獣そのものだ。
嫌がるナナに無理やり挿入したり、執拗にあそこに異物を入れられたり……。
出血沙汰もしょっちゅうだった。
疲れ果てたナナは、バイトをやめるか減らしたいとリヒトに相談した。
するとリヒトは言った。
「友達紹介してよ……」
思いあまってナナは、この事をほのかに相談した。
ほのかも、自分が受けていたいじめをナナが肩代わりしている事を以前から心苦しく思っており、リヒトのアルバイトを一部肩代わりする事を了解してくれた。
そして、ほのかのアルバイトが終わった翌日。
心身ともにボロボロになったほのかが、ナナの目の前にいた。
その時のほのかの、憎しみとも恨みとも悲しみともつかぬ顔が、目に焼き付いて忘れられなかった。
ナナは、ほのかの顔を見る事が出来なくなり、学校へ行かなくなった。
そして、それをいい事に、母親の暴力はどんどんひどくなり、ナナの身体目当ての
男たちが、家を出入りする様になっていった。
やがて、クリスマスイブの夜。
桂浜先生が、ナナの自宅に来て、玄関の向こうからこう告げた。
「村山さんが電車に飛び込んだ」
ナナは、自分の足元が地面から崩れていくような気がした。
いじめが疑われ、学校で調査委員会などが開かれたが、結局、いじめの証拠になるような事実は何ひとつ出てこなかったそうだ。
一番、状況を知っていたはずのナナは、ずっと学校に行っておらず、誰もナナの証言を取り上げようとしなかった。
このままじゃだめだ!
そう決心して、ナナは勇気を出して、一月半ばから学校に行き始めた。
ほのかに何が起こったのか、私がはっきりさせないと……。
そして、リヒトから全てを聞いた。
ナナが不登校になった翌日から、芳野のいじめのターゲットは、ほのかになった事。そして、リヒトは何度もほのかにアルバイトを勧めたらしいのだが、彼女は二度とそれを受けなかった事。
そしてリヒトはナナにこういった。
「今言った事。全部、先生に話してもいいよ!
まあ、まず相手にされないからね。
君と僕じゃ、社会的な信頼度が根本的に違うんだよ!
だからさ、また仲良くアルバイトしようよ」
ナナは、リヒトの事を桂浜先生にそのまま話したが……やはりリヒトの言う通り、取り上げてもらえなかった。ちゃんと調査委員会が調べているの一点張りだった。
そしてナナは、また不登校の引きこもりになった。
それからずっと、ほのかに申し訳ない気持ちでいっぱいで、無力な自分が情けなくて……。
そしてナナは、由比ガ浜で入水自殺した。
◇◇◇
はたから見たら、すごく奇異な光景だったろう。
来宮ナナが、部屋の真ん中に座って、声もださずにポロポロ大粒の涙をこぼし続けている。実際には、心のうちで語っているナナの言葉に、エリカが流している涙なのだが……。
ちくしょー。あたいは魔王だぞ! こんな非道な事、慣れっこなはずじゃ……。
いや、やっぱりこの話おかしいぞ!
どこをどうするとそうなるんだ。ナナの周りは鬼ばかりか?
せめて母親が、もう少しまともだったら……。
「ナナ。話してくれて有難とうな。つらかっただろ……。
でも、もう悩むな! お前はもう死んじまったんだし。
後はあたいにまかせな!
お前をここまで追い込んだ連中、一人残らず、天誅を下してやる。
こいつは、もう、あたいの戦いだよ!」
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