第7話 私刑

 翌朝、学校に行ったら、リヒトの顔が腫れていた。


 あの先輩たちにけじめを入れられたであろう事は想像に難くない。

 何か言ってくるのかと思って身構えていたが、どうやら教室内であたいと話す度胸はないらしい。


 午前の授業が終わって昼休みとなり、配膳係から配られた牛乳だけの昼食を済ませたところで、呼び出しがあった。

 そして旧校舎とやらに行ったが、意外な事に、待っていたのはリヒトではなく、小平芳野とその取り巻き三人だった。


「あれ? あたい、なんかお嬢様にご迷惑かける様な事しましたっけ?」

 エリカは、素知らぬ顔で相手をあおる。


「生ゴミ、しゃべるな! あんた、よくもリヒト様を……。

 せっかく、お前がちゃんと食べられるようにとリヒト様が手配したものを……。

 それをよくも……」

 

 あー。なんかすごく怒ってるな。

 というか、こいつもリヒトが何やってたか知ってんだ……。


「それは、双方の行き違いというか……。

 まさかあたいも、あそこでぱんつ脱がされるとは思ってなくてさー。

 ま、大事な所、見られちまった分として、千円はいただいたけどな……」


「ふざけないで。あなた、リヒトさんのお世話になるの初めてじゃないでしょ? 

 何をいまさら……。

 まさか、村山さんの件で怖くなったとか……とんだお笑い草ね。

 もともとあなたが村山さんに、あのバイトを紹介したんではなくて?

 それに私は、あんたみたいな生ゴミの淫乱変態が死ぬほど嫌いなのよ!」


「ちっ、さんざんな言われ様だな。そんで、お嬢さん。その村山なんたら……のどかだっけ……の事なんだけど、も少し詳しく教えてくれないか。

 どうにも状況が見えねえんだ」


「何を白々しい! 

 お金に困ってる村山さんに、リヒトさんのアルバイト紹介したのあなたでしょ? 

 それで、村山さんが自殺したって……それはあなたのせいでしょ!」


「ま? はー……ナナ。お前そんな事で悩んでたのかよ……。

 それ、全部がお前のせいって訳じゃねえだろ……」


 相変わらずナナは沈黙しているが、もう関係ねえ。

 このお嬢様たちとリヒトぶっ飛ばして、洗いざらい吐かせてやる。


(だめエリカ。この人達をやっつけちゃだめ! お母さんに迷惑がかかる……)


 なんだよ、またお母さんかよ……。

 じゃ、この状況、いったいどこに落とすんだい!


 その時だった。エリカは、猛烈な眠気に襲われた。

 くそっ。なんだ?


「ふう。やっと効いてきた様ね。

 まったく……野生動物には効きやすいと聞いていたのだけど」

 芳野が勝ち誇った様にそう言った。

 

 何か盛りやがったな……あ、あれか。給食の牛乳……。

 こいつら……ここまでやるか……。


 エリカは意識を失ってばったり倒れた。


「この人、昨日先輩方を素手で殴り倒したそうですし、まともにケンカするのは野蛮人ですわよね。それでは、処刑の開始と参りましょう」


 ◇◇◇



 エリカが意識を取り戻した時、あたりは真っ暗だった。

 どこだここは……くそ、手足が動かねえ。

 

 突然、あかりがついた。ここは……昨日の体育倉庫か。


 猿ぐつわをはずされ、しゃべれる様にはなったものの、エリカはショーツだけつけた状態で、手足を肋木ろくぼくに縛られ磔状態にされていた。  

 目の前に、小平芳野が邪悪な眼付で立っている。


「なんだー。ここで意趣返しのつもりか。あの先輩方でも呼んでくんのか?」

「あはーん。それは後程ゆっくりお愉しみになって……。

 あなたは、まずは私を楽しませて下さらないと……。

 私を不愉快にさせた罰です!」

 そういいながら短い鞭のようなもので、エリカの頬をペチペチ叩いた。

 そして、思い切り、腹部に鞭が入れられる。

 

 パシーン!


「この、サド野郎!」 

 そうは言うものの、今回は全く身体が動かせない。

 芳野の鞭がパシンパシンと連続して音を立てていく。

 

「さあ、叫びなさい。許しを乞いなさい。

 そうしたら、少しは手加減してあげるかもよ。

 そうじゃなきゃ、あなた。死ぬわよ!」


 ふっ。ガキが……そんなセリフ、軽々しく口にすんじゃねー。

 そうは思ったが……本当に手も足も出ねえな……。


「ふう。なかなか音を上げませんわね。それじゃ……双葉! カメラ準備!」

 そう言われた取り巻きの一人が、スマホを取り出した。


「今から、あなたのこの姿をネットに上げるわね。全世界に恥をさらしなさい!」

「おいおい……そんな事したら、あんたらも只じゃ済まんだろ……」

「何、余裕ぶっこいてんのよ! こんなもの。後でどうにでも細工出来るのよ!」

「何だよ。全然今からじゃねえじゃん……」


 バシーン!!

 くそっ。思い切り顔叩きやがった!。

 

 取り巻きの一人が、エリカの履いていたショーツをハサミで切り刻んだ。 

 痛てて! ズキンズキンがめっちゃひどくなった。

 ナナ、ごめんな。お前のフルヌード晒されちゃったわ……。


「さーて。それじゃ、おもらしでもしてもらおうかしら。

 それとも、このリレーのバトン、お尻にでも突っ込んでみる?」

「芳野様……それ、お尻とあそこの両方に入れちゃいましょうよ!」

「そうね……」


(やめて!)

 

 おっ。はじめてナナが反応した……さすがにナナでもこれは我慢出来ないか。

 って、あれ? これは……なんだこれ……マナか!? 

 でも、身体の奥から湧いて来るぞ……そうか、これ、ナナの魂からだ!

 よくは分からんが、ナナの魂がオドの役割を果たしているのか? 

 それともナナのくやしい思いそのものがマナなのか?


 ええい、この際どうでもいい。これなら……立ってるものは親でも使えってな!


「メガフィックス!!」


 エリカが呪文を唱えた瞬間、その場にいた全ての人間の動きが止まった。


「とりあえずこれでよし……あとは、使い魔にしやすそうなのは……。

 ああ、あいつだな。

 おい、そこのスマホ持ってるやつ。双葉って言ったっけ? 

 あたいの縄を解いてくれ。 

 マリオネット!」


 双葉がエリカの拘束を解き、続けて、魔力で拘束され動けない芳野達にスマホを向けた。


「双葉。まずは、さっきのあたいの裸消してくれー。

 出来た? じゃあ、カメラもう一回まわして……。

 そんじゃ、現役女子高生のストリップ劇場の開幕だー」

 そう言いながら、エリカは芳野と取り巻きの制服をハサミで切り刻んでいく。


「おい、ナナ。ぱんつはどうする? お前の見られちゃったけど……」

「エリカ。もういい。十分だよ……でもこれ。仕返しが怖いよ……」

「なるほどなー。

 そんじゃ、そんな気も起きない位、こいつらにトラウマ刻もうか?

 魔王ってのはそう言うのが大得意なんだぜ! 


 とは言ったものの……そろそろマナ切れか。

 そんなに大仰なものは出来ないから、幻で済ますか……。

 イリュージョンドリーム!」


 すると、しばらくして芳野達が、声こそ出さないが、涙をポロポロこぼして泣きだした。何かに怯えている様にも見える。中には失禁するものもいた。


「これ、夢魔とかが使う悪夢な。今、こいつらめっちゃ怖い想いしてるから……。

 これで、今後エリカ様にちょっかい出そうものなら、どんな恐怖が訪れるか脳髄に叩き込んでやる。これなら平和的だろ? ナナ」

「…………」


 しばらくして、芳野達は立ってフリーズしたまま、全員意識を失った様だ。

 

「そんじゃ、このままバックれるぞ、ナナ」

「いいの?」

「ああ、術はもうすぐ解ける。

 その後こいつら、どうやって家まで帰るかは知らんけどな」

 

 すぐそばに自分の鞄と制服が置いてあったので、身支度をして外に出た。

 ちっ。ちょっとスースーするな……。


 エリカが体育倉庫を出たら、人が近づいてくるのが見えて慌てて隠れたが……。

 ああ。あれ、昨日の先輩たちじゃん。

 

 まあ、あんだけ全裸女子がいたら、さぞやご満足いただける事でしょうや!

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