第6話 アルバイト

 お昼になって、何か小さい四角い箱を渡された。


 なんだこれと思って、周りを見ていると……ああ、飲み物なんだな。

 なるほど、ああやってこの管を挿すのか。

 飲んでみると……何かの乳か? 

 だが、一昨日のカツ丼以来、ろくなものを食っていないので、なんだか身体に染みわたる。


 他の生徒は、何やら箱やら包みを出して、中のものを食べだしている様だ。

 なるほど、弁当か……だが、当然エリカには無い。


 仕方ねーなー。

 そう思って、ぼーっとクラスの中を眺めていたら、例のリヒトが近寄ってきた。


「あれ、来宮さん。お弁当は?」

「ああ。無いんだ……」

「忘れちゃったの? 購買でパンとか買えばいいのに」

「あー。金も無いんだ……」

「あーあ。せっかく久しぶりの学校なのに、残念だね。

 ああ、これ。よかったら、僕の牛乳あげるよ。

 僕これ、ちょっと苦手でね……」

「ああ、すまねえ。ありがとな」


「それで来宮さん……お金、困ってんの? また手伝おうか?」

「手伝う? 何を手伝う……」

 そのとたん、また頭の中をズキンが走った。


「前にもやった奴だよ。アルバイト……」

「そうなんだ……」

 ナナからはなんの応答もないが、頭のズキンズキンはそのままだ。

 なんかヤバそうかな……だが、金が無ければ、今夜も明日もメシが食えない。

 多少のリスクは引き受けるか……。


「わかった。牛乳貰ったし、一回付き合うよ」

「よかった。じゃ、今日の放課後。体育倉庫ね。

 あと、千円前渡ししておくから、お昼買ってきなよ」

「ああ、ありがとな」


 その後、リヒトは教室を出て行ったが、なぜかクラスの女子が一斉にエリカの顔を見た。それも、なにか汚いものでも見るかのような冷たい視線で。


 ま、こっちは空腹でリスク覚悟だ。

 ナナの言葉じゃないが、気にしなければいいか。

 そう考えて、リヒトに貰ったお金で、購買にパンを買いに行った。


 ◇◇◇

 

 お腹が満たされて、滅茶苦茶眠いのに耐え、なんとか午後の授業が終わった。

 さって、リヒトの言ってたバイトって……。

 

 だがリヒトは「それじゃ、来宮さん。よろしくね」

と言ってさっさと帰宅してしまった。

 そして、芳野とその取り巻きが、意地の悪そうな顔つきでエリカを見ていた。


 ま、直接絡んで来ないなら、何の事はない。

 そう思って、リヒトに言われた体育倉庫に向かった。


 だが、頭のズキンズキンは相変わらず続いている。

 ナナ。いい加減に、これから何が起こるのか教えろよ……。


 通りがかりの学生に場所を聞きながら、エリカは体育倉庫にたどりついた。

 そこには、三人の男子学生がいた。身体デカいな。上級生ってやつか。


「あの、リヒトに言われて来たんですけど。何をお手伝いすれば?」


 三人は、最初ニヤニヤしていたが、いきなり笑いだした。

「はは、お前、天然かよ……それにしても貧相な女だな。

 でも、こないだの奴よりはマシか?」

「えー。俺は、こないだみたいなプヨいのが好きー」

「もういいじゃん。さっさと済ませちまおうぜ」

「はは、がっつくな。一応、鍵かけとけや」

 エリカの後ろで、ガチャリと戸の鍵が閉められた。


「あの……先輩……ですよね? 一体何を……」

「ったく。この期に及んで、ネコ被るなよ。お前も金貰って来たんだろうが!」

 そういいながら、男子の一人が、エリカのスカートを思い切りまくり上げた。

 

 なっ!? そうじゃねえかとは思っていたが……。


 エリカは反撃に出ようとしたが、両の腕と肩を、残り二人に押さえつけられた。

 床に座らされ、口にもタオルのようなものが詰め込まれる。


 くそっ、動けねえ……。


 スカートをめくった男子は、エリカの両足を抑えて、しげしげとエリカの下着を眺めている。


「はーん? 何だよ、このきったねえパンツはよ。染みで黄色くなってんじゃん! 

 ったく。どこの貧乏人をあてがいやがったんだ、リヒトのやつ……」

「いやー。俺、その方が萌えるわ……」

「いいから、その黄ばんだ奴、早く取っちまえ!」

 そう言いながら、男子達は、エリカのショーツを降ろしにかかった。


 頭の中のズキンズキンも最高潮に響き渡っている。

 ちくしょー。こいつら……。


 バゴッ!!

 ショーツに手をかけた奴が、エリカの股間を覗き込もうと頭を寄せてきたた瞬間、エリカは思い切りヘッドバッドをかました。


「ぐわっ!!」

 相手はたまらず、エリカから手を放して後ろにのけぞった。

 すかさずそいつに蹴りを入れ、反動で思い切り身体を丸め、両側にいた連中に続けて膝蹴りを入れ、二人ともたまらず、エリカから手を離した。


「さーて。やっと自由になったぜ。てめえら……覚悟はいいか!」

 エリカが仁王立ちして、床に転がっている三人を見下ろす。


「ふざけんな。お前、リヒトから金貰ったんだろ! 合意の上じゃねえのかよ!」

「はん? ああ、そういや金貰ったっけな」

「そうだろ! だったら、ちゃんと最後までヤラせろよ!」

「ああ、それキャンセルな。おめえら相手じゃ、そんな気分にもなんねーよ!

 千円は、ぱんつ見られた料金だ……まあ、あんたらもリヒトに騙されたという事で、この件は他言無用にしてやるさ……」


「このやろー!!」

 そう言いながら、一人がエリカに飛び掛かってきたが、エリカはそれを難なくかわし、腹に膝蹴りを食らわせ、前のめりになったところで、後頭部を上からこぶしで直撃した。


「殺しゃしないが……かかってくるならやるぞ!」


 エリカのすごみに気後れしたのか、三人はホウホウの体で、体育倉庫から逃げて行った。


 やれやれ……なんかこうなる予感はしてたんだよなー。

 頭のズキンズキンはもうしない。


「おい、ナナ。分かってたんなら、最初から教えてくれよー」

「……でも、お金ないとごはん食べられないし……」

「お前な。自分の身体とご飯とどっちが大事……って、どっちも大事か。

 それにしても、あのリヒトとか……とんだ喰わせもんだな。

 ナナ……お前、前にもこんな事を……」

「…………」


「ま、いいや。そんでこれ、このままじゃ済まんだろ? 

 どうする? あの桂浜とかいう先生にでも相談するか?」

「……むだ。あの人は、私のいう事は信用しない」

「でも、お前以外にも誰かがこんな目にあってるみたいじゃん。いいのかよ?」

「……のどか……」

「ん? それ、どっかで聞いた様な……。

 ああ、朝、リヒトが絡んで来たとき、頭に浮かんだお前の記憶……。

『村山のどか』の事だな。いったい何があったんだ?」

「…………」

「やれやれ。死人に口なしってのは、こういう使い方じゃねえだろ……。

 仕方ねえ。成り行きに任せるか」


 ぐきっ。

 エリカの背中に激痛がはしった。

 くそ、さっきの戦闘で背筋痛めたかな。

 やっぱこの身体、もう少し鍛えないと、あたいの動きについて来られず、いつか壊れるわ。

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