34. 再会 前編

琴乃ことのの両親はね。この体育祭から付き合い始めたんだ。それはおばあちゃんから聞いてる?」

「い、いえ、そこまでは……」


 聞くも何も当事者なのだからそんなことは知っている。

 しかし、湯井ゆい唯人ゆいととしてはそんな風に答えるしかできない。


「丁度、今の琴乃ことのと同じ一年生のときだったかな。そう考えると、随分歳取ったように感じちゃうなぁ」

「は、はぁ……?」

「当時の僕はここの三年生でね。琴乃ことのの父親は僕から見ると、幼馴染みたいなものだった」

「……」

「当時は複雑だったなぁ……。弟と妹が付き合ったみたいでさ」


 初めて誠一郎せいいちろうさんの当時の心境を聞いてしまった。


「自慢じゃないけど僕って昔から何でもできてさ」

「自慢ですよそれ」

「いいからいいから」


 俺が横槍を入れても、兄さんはそのまま話を続けた。


「逆に僕の妹は何にもできない子だった」

「……」

「運動も勉強も全然駄目で手先も不器用。そういうところは、娘の琴乃ことのは似なくて良かったって思ってる」


 全部知ってる。


 残念ながら美鈴みすずは、何かの才に恵まれている子ではなかった。


 全部、兄のほうに取られちゃったかもとは美鈴みすず本人が言っていたくらいだ。


「だからそんな美鈴みすずを守れるような男にするために、僕は康太こうた君をびしばし鍛えてやることにしたのさ」


 久しぶりにその名前で呼ばれた。


 ――古藤ことう康太こうた


 前世の俺の名前だ。


「君はそのときの彼と同じ顔しているから」

「え!?」


 に、兄さんが突然おかしなことを言ってきたぞ!?


「お、おおお同じ顔!?」

「そう表情が似ているなって」


 びっくりしたぁああ!

 まさか前世の俺に気付いたのかと思った!


「何か迷っている顔してるよ」

「……」


 誠一郎せいいちろうさんは何でもできる超人でもあるが、何よりも人の感情を読むのに長けていた。だから、高校の時は生徒会長として色んな人に慕われていたし、それは就職してからも多分ずっとそうなのだろう。


 確かに俺は迷っている。

 琴乃ことののこと……。

 木幡こはたのこと……。

 そして今の自分の状態のこと。


「死んでからじゃ何にもできないからね、後悔がないように。まぁその言葉を一番言いたい男はもうこの世にもういないんだけどね」

「……」


 目の奥が熱くなってしまった。


 多分この人が語りかけているのは湯井ゆい唯人ゆいとだけじゃなくて、古藤ことう康太こうたにもその言葉を投げかけているのだ。


 琴乃ことのだけじゃない。

 この人も……きっとオフクロも、俺たちがいない間に色んな思いを抱えて今まで生きてきたのだ。


「分かりました」

「おっ、何か吹っ切れた顔してるね」

「考えるよるも、先に行動してみせろって前に言われたときがあったので」

「えっ?」


 今の兄さんの言葉で決心を固めることができた。

 本当にそれが起きているかどうかはやっぱり本人に聞いてみるしかないのだ。


せい兄ちゃんありがとう! ちょっと俺行ってきます!」

「ええっ!?」


 兄さんの困惑の声が聞こえてきた。




※※※




木幡こはたぁああ!!」


 クラスメイトたちと談笑している木幡こはたに声をかける!

 琴乃ことのはどうやら委員会の仕事で席を外しているようだ。


「な、何!? すごく表情が怖いんだけど」

「今すぐ屋上に来い!!」

「えぇえええ! 私、ヤキでも入れられるの!?」

「なわけないだろう!」


 そう言って木幡こはたを連れ出すことにようやく成功した!


「言いたいことあるならそこでいいじゃない!」

「そこじゃダメなんだよ。俺の勘違いだったらそれでいいから!」

「何わけわからないことを言ってるの!?」


 木幡がぎゃいぎゃい騒いではいたが、その手を無理矢理引っ張り屋上に向かうことにした!




※※※




「ここに見覚えは!?」 


 屋上に到着して、すぐに木幡こはたにそのことを聞いてみた!


「そりゃここの生徒だもんあるわよ」

「ぐっ……!」


 思ったような反応は返ってこなかった。

 なら次の一手だ!


「体育祭に屋上で告白に聞き覚えは!?」

「えぇええ!? 私これから告白されるの!?」

「ちがーーう!」


 く、くそぅ! こいつとはいつも何かが噛み合っていない気がする!

 こうなったらど真ん中ストレートで聞くしかない!


「ええい! めんどくさい! お前は“古藤ことう美鈴みすず”かって聞いてるんだよ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る