27. RE:娘vs娘の友達

「そんなに私の邪魔をする心春こはるちゃんなんて嫌いなんだから!」


 琴乃ことのが激昂している!


「うっ……うっ……、私はことちゃんのことが心配なだけなのにぃ。嫌いなんて言わないでよぉ……」


 既にノックアウト寸前な木幡こはた

 デジャヴだ! 前にもこんな光景を見た気がする!


「正々堂々と勝負だよ、心春こはるちゃん。今日、唯人ゆいと君とデートするのはどっちだか決めようよ」


 勝手に俺が景品にされる。


 しかしこれは願ってもないチャンスなのでは!?

 上手くいけば娘と本気デートを回避できるかもしれない!


木幡こはた!」


 色んな願いを込めて木幡こはたに視線を移す!


「うっ……うっ……ぐすっぐすぅ。おえぇえええ」


 ダメだこりゃ。勝ち目なしだ。

 木幡こはたが早くもむせび泣いていた。

 

琴乃ことの、その話はそこまでにしよう。木幡こはたが泣いちゃってるし」

「や、やるぅ……!」

「ん?」

ことちゃんのために頑張るもん」


 鼻水をすすっているが、木幡こはたの目には炎が宿っている。


「そもそも勝負って何するつもりなの?」

「ケーキ大食い対決! 今日、唯人ゆいと君と行くつもりだったお店で食べ放題やってるの!」


 おっ! 凄く女子高生っぽい!

 思ったよりも可愛い対決になりそうなので、ほっこりしてしまった。




※※※




「私、この日のために昨日のご飯はあんまり食べなかったんだ~」

「あんまりってことはちゃんと食べたんだね……」

「うんっ!」


 三人でケーキ屋さんに向かう途中、琴乃ことのがるんるんでそんなことを言ってきた。


 そういえば昔もこんなことあったなぁ――。




●●●



 

「うぅ……もうお腹いっぱい」

「昨日ご飯抜いたとか言ってたくせにまだ二皿目じゃんか!」

「甘い物って自分で思ったよりも食べられないんだもん」

「おいおい」

「これ全部あなたが食べてよ~。私はお肉が食べたくなってきたよぉ」

「もうちょっと頑張れよ!」




●●●



 

 懐かしいな。

 そういえば、アイツともスイーツの食べ放題に行ったときがあった。


 ダメだと思っていても、今の琴乃ことのを見ていると、どうしても亡き妻と重なってしまうことがある。


「えへへへ」

「な、なんだよ急に笑って」

唯人ゆいと君の今の顔好き」

「顔?」

「凄く優しい顔してたよ」

「そう?」

「えへへへへ」


 琴乃ことのが俺の左手に組み付いてきた。


「左手はもう大丈夫?」

「もう平気だよ。テスト前には包帯取れてたし」

「この左手が私を助けてくれたんだもんね」


 琴乃ことのが俺の左手を優しくさすってくる。


「二人ともぉおお! イチャついてるとこ悪いんだけど、絶対に私は負けないんだからね!」

「ふんっだ。私こそ心春こはるちゃんなんかに負けないんだから」

「そんなに冷たくしないでよぉお……」


 メンタル崩壊中の木幡こはた、自分から仕掛けといてあっさり負ける。


「ぷっ……!」


 思わず笑いがこぼれてしまった。

 よく考えると、琴乃ことの木幡こはたには随分同級生らしい態度を取っている気がする。


唯人ゆいと君、なんで笑っているの?」

「いや仲いいんだなぁと思って」

「うん! けどそれとこれとは話が別だからね!」


 琴乃ことのの細い手が俺の左手をぎゅっと握りしめた。




※※※




 一学期の中間テストから引き続く、琴乃ことのvs木幡こはたシリーズ第二戦!


 今回の勝負はケーキの食べ放題対決!


「……」


 勝負は既に決着の様相をていしていた……。


木幡こはたってマジでさぁ」

「うぅ……。だって甘い物って自分で思ったよりも食べられないんだもん」


 木幡こはた心春こはる、一皿と半分。

 つまりケーキ一個と半分しか食べることができていない。前回に引き続き、ゴミのような成績を出していた。


「私もお腹いっぱい~」


 古藤ことう琴乃ことの、三皿。

 これも食べ放題に来るような人の枚数じゃないと思う。


「お前たちと食べ放題にくるともったいないというはよく分かった」


 俺もなんとか四皿。お店にとっては良い客だよなぁ俺たち。


「えへへへ~。心春こはるちゃんに勝ったよ」

「うぐぐぐぐ」


 威勢だけの木幡こはたが威勢すらも失ってしまった。


「あれ? 私が勝ったら心春こはるちゃんに何してもらうんだっけ?」

「何も決めてなかったわよ……」

「とりあえずもうデートの邪魔はしないって約束してくれる?」

「う゛ぅ」


 琴乃ことのとの本気デートが確定してしまった!


 ば、馬鹿野郎め……!

 少しでもお前に期待した俺が馬鹿だったよ……。


「今度は二人きりで来ようね唯人ゆいと君!」

「う、うん」


 そう言って琴乃ことのが、また俺の腕に組みついてくる。


「ねぇねぇ、唯人ゆいと君はどこ行きたい? 何したい?」

「そんなすぐ思い浮かばないって!」

「えへへへ。二人でやりたいこと全部できるといいなぁ」


 幸せそうな顔をした琴乃ことのが俺にそう言ってくる。


(とりあえず今日はこれでいっか)


 琴乃ことののそんな顔を見ていたら、俺も心が満たされてしまった。

 

 このままこの関係にはしとくことはできないが、琴乃ことのの笑顔が見れれば今日のお出かけは大成功だ。


 ……一人の犠牲者が出てしまったが。


「うぅ。次は絶対に負けないんだから」


 実に小物っぽい台詞を木幡こはたが吐く。


「はぁ。とりあえずもうお店出ようか」

「うん! 次はどこ行く?」


「うぅううう……」


 木幡こはたがいつまでもうめいているいるので、とりあえず会計を終えて三人でお店を出ることにした。




※※※




「あれ? 琴乃ことのちゃんじゃない?」


 お店から出ると、通りすがった一人の男性が俺たちの傍に近寄ってきた。


「あっ、叔父さん」


 げげぇーーーー!


 あの顔は老けてはいるが、前世の妻の兄貴!

 つまり俺の義兄だった人物だ!


 ある意味一番会いたくないやつに会ってしまった!


「えっ……?」


 木幡こはたの大きな目が何度もぱちくりしていたのが気になった。

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