26. 父、娘の友達に相談する

 大事件が起きてしまった次の日の昼休み。


 琴乃ことのが委員会の集まりで席を外していたので、俺は木幡こはたに声をかけることにした。


木幡こはた、ちょっといいか?」

「どうしたの湯井ゆい君?」

「ちょっと相談があるんだけど……」

「相談!? 任せて!」


 木幡こはたがめちゃくちゃ嬉しそうな顔をしている。

 こいつが犬ならふりふりと尻尾を振っているだろう。


 頼られると嬉しくなっちゃうタイプだなこいつ……。


 俺はいかに琴乃ことの木幡こはたを振ることができるかを考えていたが、事態は急変してしまった!


 俺は琴乃ことのとの関係をどうしていいのか分からなくなってしまっていた。


 そこで、一部始終を知っている木幡こはたに相談してみることにしたのだ。


木幡こはたはぶっちゃけどう思ってるの?」

「なにが?」

「俺と琴乃ことののこと」

「いきなり変なことを聞いてくるわねぇ」


 木幡こはたが顎に手を当てて考え込む。


 きっと木幡こはたなら……!

 女の子大好きっ子の木幡こはたなら、俺が憎くてたまらないはずだ。


 オフクロは俺と琴乃ことのの関係に好意的。

 琴乃ことのも非常に前向きな状態!


 頼むっ!


 この状態はおかしいと言ってくれる人が欲しい!


 今、この関係を否定してくれるのはお前しかいないんだ!


「別にいいんじゃない?」

「はぁああああああ!?


 思わずその場でずっこけそうになってしまった!


「何よ変な声だして」

「どうした木幡こはた! お前の琴乃ことのへの気持ちはそんなものだったのか! お前の気持ちは上辺うわべだけだったのか!?」

「どうしたのよ急に」

「どうして! どうしてそう思う!?」

湯井ゆい君、昨日から何か変だよ」

「いいから答えてくれッ!」

「うーん」


 木幡こはたが今度は額に手を当てて考え込む。


「むす……琴乃ことのの好きになった人だからいいんじゃないかなぁって思って」

「なっ!? お前は悔しくないのか!」

「そりゃ悔しいわよ。けど琴乃ことのがやりたいって言ったことやらせてあげようっていうのが私のスタンスだから」


 お前は親かっ!?


 くそぅ……! 思ったよりも琴乃ことのへの気持ちが純愛だった。

 もっとドロドロに薄汚れたものだと思っていたのに!


「全く何が不満なのよ。彼女ができそうなんだから少しは喜んだらどうなのよ」

「だから喜んじゃダメなんだよ!」

「なんで?」

「お、俺と琴乃ことのはそうなっちゃいけないんだよ……」

「だからなんで?」


 木幡こはたの大きな瞳が俺を見つめる。

 琴乃ことのは俺の実の娘だからだなんて言っても、こいつには信じてもらえないだろう。


「こ、の方向性が違うから」

の方向性?」

「ほ、ほら、ってあるじゃん。向こうがパパなら、こっちは呼び捨てっていうか……その違いがあるとってならなくない?」


 ちょっと分かりづらかったかな……。

 けどはっきりと真実を告げるわけにもいかないし、こんな風に言うしかないよなぁ。


「あ、あああがなんですってぇええ!?」

「あれ?」


 木幡こはたの顔がみるみるうちに鬼の形相になっていく!


「よ、よくの前でそんなことを言えたわね! あんたたちもうそこまで進んでいたの!?」

「なんで怒ってるんだよ! むしろこんなこと木幡こはたにしか言えねーよ!」

「し、しかもパパでって……! どんなプレイしてんのよ! この変態!!」


 あ゛ぁああああああ!!

 ついに娘の同級生に変態と言われてしまった!


 娘の友達に罵倒されるって一部の界隈には需要がありそうだが……。


 需要?


「いや待てよ……?」


 そうだ! 俺は木幡こはた心春こはるに今の関係を否定してほしくて相談したんだった!


「そうだよな! そんなこと(娘と付き合う)するなんて変態だよな!!」

「なんで変態って言われて喜んでるのよ! この変態!」

「あぁ! やっぱり俺は正しかった! もっと言ってくれ!」

「はぁああああ!?」


 木幡こはたが更に俺に沢山の罵声を浴びせてきた!




※※※




 放課後になると、琴乃ことのがすぐ俺の傍にやってきた。


「じゃあ唯人ゆいと君、デート行こ! 心春こはるちゃんはバイバーイ!」


 木幡こはたがまたしても琴乃ことのに木っ端微塵にされていた。


「ちょっと待ちなさい!!」


 だが今日の木幡こはたは違う!

 バラバラにされてもすぐに復活した。


ことちゃん。よーーく考えなさい。本当に湯井ゆい君みたいな変態が彼氏でいいの?」


 おっ、木幡こはたが俺に協力をしてくれるようになった!


 なんだよ! お前、結構いいやつじゃんか!


「なんで心春こはるちゃんにそんなこと言われないといけないの?」


 あからさまに琴乃ことのがムッとした顔を見せる。


湯井ゆいくんはあなたが思ってるよりもずっと変態なのよ!」

「むー」


 めちゃくちゃに険悪な空気が流れる!


心春こはるちゃん!」

「ど、どうしたの琴乃ことの?」

「そんなに唯人ゆいと君を私に取られたくないならはっきり言えばいいでしょ!」

「えぇええ!?」


 暴走機関車琴乃ことの号。

 今日も駅に止まることはありません。


「いつもいつも私の邪魔をして! こうなったらはっきりしようよ」

「こ、ことちゃぁん!」


 琴乃ことのが臨戦態勢に入る! 既に半べそ状態の木幡こはた


 一体、どうなってしまうのか!?

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