18. ご近所転生! side???

◆ 木幡こはた心春こはる ◆



 世の中には、自分で思っているよりもずっと不思議なことがある。


 転生、生まれ変わり、前世の記憶を持って生まれてくる……。


 私は、昔からその手の類のものは信じていなかった。


 ……だったのだが、いざ自分が経験するとそれが本当にあるものだと信じざる得なくなる。



 ――私には前世の記憶がある。


 幼馴染の彼と同じ大学を出て、地元の零細企業に就職。


 その後、その彼と結婚し一児の子供を授かった。


 子供の名前は“琴乃ことの


 私のお腹に子供がいると知った時の夫の喜びようは本当にすさまじかった。


 夫は、毎日毎日、いくつも名前の候補を持ってきて、私と一緒に子供の名前を考えてくれた。その時間がとても幸せだったし、そのことは今でも私のとても大切な思い出の一つだ。


 部屋も狭いアパートだったし、経済的にも決して余裕があるとは言えなかった。


 それでも私は幸せだった。


 最愛の夫と、最愛の子供がいてくれる――私は充分すぎるほど満たされてしまっていた。




●●●


 

 

 木幡こはた心春こはる 十五歳の高校一年生。


 これが今の私の名前だ。


 幼いころから、前世の記憶があったわけではない。前世のことを思い出したのは高校に入学してからだった。


 思い出すキッカケは間違いなくこの子だった。


木幡こはたさん、今日の体育は私とペアだって」


 高校の出席番号は五十音順でつけられる。

 古藤ことう木幡こはた、ただ名前の五十音が近いだけだったが、私は彼女を見て一発で気付いてしまった。


 古藤ことう琴乃ことの

 私の最愛の娘だ!


 どういうわけか私は娘の同級生に転生してしまっていたのだ!



 ――可愛くなったなぁ。



 目は前の私に少し似てるかな? 

 鼻筋と髪質はお父さんに似ているような気がする。


 何よりも笑った時の表情が夫にそっくりだ!

 亡き夫を今の娘と重ねてしまって、思わず涙ぐんでしまう。


 私はそれから琴乃ことのに積極的に話しかけるようにした。


 今どこで暮らしているのか。今までどうしていたのか。

 同性だったのですぐに琴乃ことのは私に心を開いて、色々と話しをしてくれるようになった。


 お母さんがいなくて寂しかったこと。

 お父さんがいなくて寂しかったこと。


 ――お父さんのことが本当に本当に大好きだったこと。


 お父さんの好きだったものを今でも探してしまっていること。

 この子にとって、父親の存在というものは相当大きかったようだ。


 子供のときからお父さんが大好きで、お父さんからずっと離れないような子だったもんなぁ。


 母が娘に嫉妬することがあるとは聞いたときがあるが、私は琴乃ことのに対して一切そんなことは思わなかった。


 だって、私が大好きな彼を娘も大好きになってくれているんだもの。

 こんなに幸せなことってないと思う。


 私が琴乃ことのが大きくなるまで見守ってあげよう。

 夫の分まで琴乃ことののことを守ってあげなければ。


 私はそんなことを心に深く誓っていた。




※※※




 “お手柄! 地元高校生が不審者を撃退”



 ある日の地方紙の記事だった。


 なんと琴乃ことのが暴漢に襲われて、それを同じクラスの同級生に助けてもらったらしい。


 悔しかった。


 琴乃ことのの危機に私がいなかったことに。


 琴乃ことのを助けたのが私ではなく、同じクラスの同級生だったことに。


湯井ゆい君! 湯井ゆい君!」


 それから琴乃ことのは、その同級生の湯井ゆい唯人ゆいと君に随分なついてしまっていた。


 私も女だから分かるが、どうみても琴乃ことの湯井ゆい唯人ゆいと君に恋をしてしまっていた。


 ま、まぁ……琴乃ことのが好きって言うなら私も認めざる――。


「えへへへ。湯井ゆい君ってお父さんにそっくり!」


 似てるかーーーーーー!


 昼休み、琴乃ことのの声がこちらにまで聞こえてきてしまった!


 夫の方がイケメンだったし、夫の方がもっと賢そうな顔してたし!


 よりにもよって、高校生のクソガキに私の夫が似ているなんて!

 あんたの目は節穴か!


 そんな心の叫びを抑えて、私は琴乃ことのとしてしばらく琴乃ことのの様子を見守ることにしたのだ。




●●●




「こ、心春こはるちゃんは唯人ゆいと君のこと好きなの!?」


 琴乃ことのが涙ぐみながら私にそんなことを聞いてくる!


 私がッ!?


 年下の子供に!?


 しかも未亡人とはいえ結婚しているのに!?


「そ、そそそんなわけあるかーーーーーー!」


 琴乃ことのがとんでもないことを聞いてくるので、つい大声が出てしまった!


「本当……? 嘘ついてない?」

「馬鹿なことを言わないで! どうして私が湯井ゆい君のこと好きになるのよ!」

「本当に? 私の唯人ゆいと君を取ったりしない?」

「取るわけないでしょう! なんでそうなるの!?」


 何で、私が娘の彼氏候補を寝取るような真似しなければならないのか!


 っていうか無理! 年下は絶対に無理!

 私はあの人と添い遂げるって決めたのだから、馬鹿なことは言わないでほしい!

 

「本当に? 唯人ゆいと君のことを好きにならないって約束してくれる?」

「するする! そんなの絶ッッッ対にありえないから!」

「良かったぁ……」


 琴乃ことのが心底安心した顔をしている。


 そ、そんなに湯井ゆい君のことが好きなんだ……。


 琴乃ことのに好きな人ができたと知ったら夫はどんな顔をするのだろうか。

 ふふっ、ものすごく変な顔しそうだなぁ。


「じゃあ心春こはるちゃん! もう帰っていいよ!」

「え゛ぇえ!?」


 うぅ……あまりにも無邪気に琴乃ことのが私にそう言ってくる。


 あなた、天国で見てる?

 私たちの琴乃ことのは本当に純粋すぎるくらい真っ直ぐに育ってたみたいだよ……。


琴乃ことの、それはちょっと――」


 娘が恋している同級生が私たち親子の間に割り込んできた。

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