17. 娘の友達は俺が好き?

ガチャ



『や、やっと出たぁ!!』


 携帯に出ると、木幡こはたから安堵の声が聞こえてきた。


「なに? どうしたの?」

『こ、琴乃ことのがぁ……』


 琴乃ことの

 琴乃ことのなら俺の隣で寝てるけど……。


琴乃ことのが私のメッセージに返信してくれないの』

「……」

『ぐすっ……』


 めちゃくちゃしょうもなかった……。

 しかもそんなことで泣きそうになってるし。


「切っていい?」

『ま、待ってよ! あなたなら琴乃ことのの居場所知ってるんじゃないかなと思って!』


 だから琴乃ことのは、俺の隣で布団の匂いを嗅ぎながら寝てるんだけど。


『はっ! ま、まさか!』


 木幡こはたが何かを察したようだ。


『まさか一緒にいるんじゃないでしょうねーーーー!』


 携帯を通して、木幡こはたの大声が部屋に響き渡る!


 うるせぇえええ! 

 鼓膜にダイレクトアタックはマジでやめろ!

 

「んぅ……。今、女の子の声がしたけど」


 あっ、琴乃ことのが起きてしまったようだ。


「ん? 女の子?」


 琴乃ことのの表情がどんどん曇っていく。


「ちょっとー! 唯人ゆいと君どういうことー!」

『あ゛ーーーー!! この声は琴乃ことのじゃん!! やっぱり一緒にいたんじゃん!』


 だぁああああ! 二人でいっぺんに喋るな!


 琴乃ことのがすごい剣幕で俺に詰め寄ってきた!


「な、なんで唯人ゆいと君が私以外の女の子と話してるの?」


 いや普通に話すだろ。


「私の知らない子だよね。どこの誰?」


 いやお前の友達なんだわ。


「はぁ……木幡こはたさんだよ。琴乃ことのと話がしたいんだって」

心春こはるちゃん?」


 そう言って琴乃ことのに俺の携帯を渡す。


ことちゃーーん! 全然連絡くれないんだもん心配したよぉおお』

「ど、どうしたの?」

『あんなにメッセージ送ったのに全然返信をしてくれないんだもん』

「ご、ごめん。今日は唯人ゆいとくんちに来てお掃除の手伝いしてたの」


 微塵も掃除してねーよ。嘘つくな。


『な、なんでことちゃんがわざわざそんなことをするの!?』

「だって唯人ゆいと君、左手がまだ良くないから」

『じゃ、じゃあ私も行く!!』


 木幡こはたが突然そんなことを言ってきた。




※※※




 少しすると木幡こはたがうちに襲来した。


 むすくれる琴乃ことの

 何故かいらついている木幡こはた

 流れる重苦しい空気。


 ここは地獄か? 自分の家なのに。


「へぇ~、随分いい身分じゃないかしら。うちの琴乃ことのを手伝わせようなんて」

「お前は琴乃ことののなんなんだ」


 部分に引っかかって、木幡こはたに思わずツッコミを入れてしまった。


 どうもこいつと話していると、同世代らしく振る舞ってしまうなぁ……。


心春こはるちゃんってもしかして……」

「どうしたの琴乃ことの? そんな心に配そうな顔をして」


 木幡こはた琴乃ことのへの呼び方が一貫しないなぁ。


 “琴乃ことの”だったり“ことちゃん”だったり。


 お姉さんぶりたいのか、それとも仲良しっぽくしたいのかさっぱりだ。


「ううん、何でもない……」


 木幡こはたが来てから琴乃ことのの様子がおかしい。


琴乃ことの、とりあえず掃除手伝ってもらっていい?」


 とりあえず琴乃ことのには予定通り掃除をお願いすることにした。

 作業していれば、この重苦しい空気も少しは緩和されるだろう。


「うん!」

琴乃ことのが手伝うなら私もやる!」


 何故か木幡こはたも張り切り始めてしまった……。




※※※




琴乃ことの、洗い物は最後にまとめてすすいだほうがやりやすいよ」

「う、うん」


 琴乃ことの木幡こはたがうちのキッチンの洗い物をしている……。


 そ、そこまでは頼んでいないんだけど……。


 木幡こはたが参戦することで、思ったよりも大掃除になってしまった。


「油汚れがひどいのは後回しにして――」


 それにしても意外だ。

 木幡こはたがとても慣れた様子で家事をしている。


「あっ、琴乃ことの! それはそんな風に洗うと危ないよ」


 けど、めちゃくちゃ口うるさい……。

 琴乃ことのがしょげながらも手を動かす。


「うぅ……うぅ……、唯人ゆいと君に良い所を見せたかったのに」


 可哀想になってきた。

 人んちの家事で、なんやかんや言われるとは琴乃ことのも思っていなかっただろう。


琴乃ことの、俺も手伝うよ」

「ううん、いいの。唯人ゆいと君はまだ包帯取れないから休んでて」


 琴乃ことのに声をかけると、木幡こはたが俺たちの会話に混ざってきた。


「甘やかさないでよ。今、琴乃ことのに洗い物を教えているんだから」

「……」


 なんという上から目線!


 確かに木幡こはたのほうが圧倒的に手際はいいが、同級生からそんなことを言われたら琴乃ことのだって気分が良くないだろうに!


「ごめんな琴乃ことの

「ううん、大丈夫。ぐすん」


 琴乃ことのが目に涙を浮かべながら頑張っている。


 頑張れ琴乃ことの……。

 お父さんが全力で見守っているからな……!


「よし! じゃあ次は――」

「……」


 木幡こはたが場を仕切り始めた!


 なんやねんこいつ!

 そんなに琴乃ことのに良い所を見せたいのか!


「わ、私! やっぱり心春こはるちゃんに聞きたいことがあるの!」


 琴乃ことのが突然、意を決したように木幡こはたに声をかけた。


「ど、どうしたの? 琴乃ことの?」


 琴乃ことのが鬼気迫る表情をしている!

 その様子に木幡こはたが驚いた声を出していた。


「こ、心春こはるちゃんは唯人ゆいと君のことが好きなの!?」


 娘が友達にとんでもないことを聞いていた。

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