6-2. 同級生に怒られた! 痴漢編

◆ 古藤ことう琴乃ことの ◆



 私のお尻を触っていた手を、唯人ゆいと君が思いっきり掴み上げる!


「なにしてんだぁああああ!」


 唯人ゆいと君がすごい形相で怒っている!


 唯人ゆいと君がその手を引っ張ると、痩せたメガネの男の人がこちらに体制を崩しながらやってきた。


「お前は死刑だ! 死刑執行だ!!」

「な、なんなんですかいきなり!!」

「それはこっちの台詞だ!!」

「い、一体なんの話ですか!?」

琴乃ことのの小さなお尻を触っていただろう!」


 ゆ、唯人ゆいと君が本気で怒ってくれてる……!!

 こっちにも音が聞こえてきそうなくらい、唯人ゆいと君はその人の腕をぎりぎりと握っていた。


「い、痛い! 暴力は良くないですよ!」

「痴漢の方が良くないに決まっているだろう! しかも高校生に痴漢って!?」

「ど、どこにそんな証拠があるって言うんですかぁ!?」

「こっちには被害者の証言があるんだよ! なぁ琴乃ことのっ!」


 唯人ゆいと君が私のために!

 私のためにこんなに怒ってくれてる!


 そ、それにさっき俺の女だって……。


「えへへへ」


 思わず表情が緩んでしまう。

 心がほわほわと暖かくなってしまう。


「こ、琴乃ことの!? どうした!? 大丈夫か!?」

唯人ゆいと君が怒ってくれてる~。俺の女だって言ってくれた~」

「大丈夫じゃなかった」


 何故か唯人ゆいと君が困った顔をしている。


「こ、琴乃ことのしっかりしろって! そんなことより――」

「えへへへ」


 表情が崩れてしまうのが止まらない。

 胸のドキドキがおさまらない。


「と、とりあえずお前! 琴乃ことのに謝れ!」

「はぁ? 高校生のガキが大人にお前とか!」

「そんなの関係ないだろ。ガキの尻を触っといて何を言ってるんだ!!」



『次は〇〇駅。〇〇駅。お出口は右側です』



 唯人ゆいと君と男の人が言い合いをしていたら、いつの間に目的地ついてしまった。


 私は、お尻を触られたショックよりも、唯人ゆいと君が真剣に怒ってくれた嬉しさの方がはるかに上回ってしまっていた。




※※※



 


 私に痴漢をした人は、そのまま唯人ゆいと君が駅員さんに差し出していた。


 すごく頼もしかった!


 その後、駅員さんや警察の人に色々事情を聞かれて、時間はもうお昼を回ってしまっていた。


「いいか琴乃ことの! 危ないと思ったらすぐ声を出す! 危険だと思ったらすぐに助けを求める!」

「分かってるって~」


 唯人ゆいと君の怒りが全然収まっていない!


 けど、それは私のことを心配してくれているからだというのが分かる。

 それがものすごく居心地が良かった。


「本当に分かってるのか! 大体この前だって!」

「分かってるよー! この前も今日も唯人ゆいとくんが助けてくれたんでしょ?」

「違う! 違う! そうじゃない!」


 唯人ゆいと君が必死に何かを言おうとしてくれている。


 そういえば、お父さんも私が危ないことをするとそんな表情で怒ってくれたなぁ。


「いいか琴乃ことの。俺がいるときは琴乃ことののことを守ってやることができるけど、俺がいないときは自分の身は自分で守らなきゃいけないんだぞ」


 その一言で胸がキュンとなってしまう!


 同級生の男子にそこまで言われるなんて恥ずかしい……。

 けど、嬉しいしほわほわした気持ちになってしまう。


唯人ゆいと君がいたら守ってくれるんだ……!」

「だからそういうことじゃなくて!」


 何だかお父さんに見守ってもらってるみたい。死んだお父さんもきっと唯人ゆいと君と同じようなこと言ってくれるのかな。


「……今度、君のおばあちゃんと会ってじっくり話がしたい」

「えっ!? えぇえ!?」


 と、ととと突然っ!!

 唯人ゆいと君がそんなことを言ってきた!!


「そ、それはいくらなんでも早すぎるよぉ!」

「いや、こういうのは早い方がいい。できるだけ早く会って話がしたいんだ!」


 唯人ゆいと君が凄いスピートでぐいぐいくる!!

 ドキドキしすぎて胸が苦しい! 息ができない!


「か、考えとく……!」


 高鳴る気持ちを抑え付けて、何とかそんな返事をすることができた。


「あぁ。ありのままの俺の気持ちを君のおばあちゃんにぶつけさせてくれ」

「えぇええええ!?」


 だ、ダメだぁあああああ!


 こんなにドキドキする気持ちを抑え付けてなんておけないよ!!


「だ、だって――まだ付き合っても――」


 声が出ない。

 胸が爆発しそうで上手く声が出せない。


 うぅ……。

 同じ歳なのに唯人ゆいと君はなんであんなに堂々とできるんだろう。


「どうした? 大丈夫か?」

「う、うん……何とか」


 唯人ゆいと君が何かあるごとに大丈夫かと私のことを心配してくれる。

 そのちょっとぶっきらぼうな言い方も本当にお父さんにそっくりだ。

 

「はぁ……。じゃあ気を取り直して映画見に行くか。最初にも言ったけど今日は俺の傍から離れるなよ琴乃ことの

「うんっ!」


 唯人ゆいと君が優しく私にそう言う。

 私の声は勝手に弾んでしまっていた。

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