独白:忘却
この裏山は、実に多くの桜の木で覆われている。
その桜の中で、一年中咲き誇る桜が、一本。
他の桜は、むしろ、その一本を隠す為に植えられたようなものだ。
大昔の、くだらない噂。
その桜の為に捧げられた、私という存在。
守人として、人柱として、山の中で一生を過ごす。
兄も死んだ。うちの血も、きっと私の代で終わりだろう。
周りに散る、桜の花を拾い上げる。
花弁単位ではなく、この桜だけは花ごと散るのだ。
嗚呼、今年も冬がやってきた――――。
◆
目の前のキャンバスに向けた筆が止まる。
どこを、塗ろうとしていたんだろう。
そもそも、何を描いていたんだっけ。
わたしって、絵を描く人間だった?
足元が沈み込むような、足首まで飲み込まれたかのような感覚に、頭を振る。
籠に入った桜の花たちが、籠ごと落ちてしまう。
それを拾い上げながらふと気づくのだ。
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