独白:忘却


この裏山は、実に多くの桜の木で覆われている。


その桜の中で、一年中咲き誇る桜が、一本。


他の桜は、むしろ、その一本を隠す為に植えられたようなものだ。


大昔の、くだらない噂。


その桜の為に捧げられた、私という存在。


守人として、人柱として、山の中で一生を過ごす。


兄も死んだ。うちの血も、きっと私の代で終わりだろう。


周りに散る、桜の花を拾い上げる。


花弁単位ではなく、この桜だけは花ごと散るのだ。


嗚呼、今年も冬がやってきた――――。





目の前のキャンバスに向けた筆が止まる。


どこを、塗ろうとしていたんだろう。


そもそも、何を描いていたんだっけ。


わたしって、絵を描く人間だった?


足元が沈み込むような、足首まで飲み込まれたかのような感覚に、頭を振る。


籠に入った桜の花たちが、籠ごと落ちてしまう。


それを拾い上げながらふと気づくのだ。

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