黄金色の風



「かくしてうちのじいちゃんは学校設立のために土地やらなにやら尽力したのでした」


長かった彼女の祖父の話が終わる。コトン、と空になったマグカップを置く。風が冷たくなってきたので棚の奥から出したものだった。今は彼女と出会ってから何回目の秋だったかな。


「へ~じゃあ君が学校通ってたときもおじいさんは割と出入りしたりしてたの?」

「う~ん?ん~たまに?あんまり見かけなかったから覚えてないな!まあ、子供の数は減り続けて結局廃校になっちゃったけどね」

「学校設立は失敗だったの?」


当の廃校の一室。備品の机と椅子。月1で洗濯しているカーテン。昨日が洗濯の日だったから風が吹くたびにふわりふわりといい香りが鼻をくすぐる。秋風と相俟ってどこか懐かしいような香りだった。


「いいや。建物を撮影に使いたいとか色々借りたい人に貸したりで儲けてるから」

「あ、そこ自分で儲けてるとか言っちゃうんだ」


風が。吹くたびにカーテンを押し上げて、金色の光が教室に満ちる。まだ電気をつける必要はないな。


「事実だしな。それに、失くすのは寂しいだろ」


カサカサ。風に運ばれてきた落葉が一枚。彼女はおもむろに拾う。ぱりぱりぱり。指先で砕く。


「秋の死んでいく音だ」


覚えてるか、と口角を上げる。懐かしい。最初の秋だっただろうか。彼女は並木のイチョウを踏み歩き金色の光を纏っていた。


「インパクトが強すぎたからね。記憶の引き出しに居座ってるよ」


金の粉が指先から舞う。懐かしさのあまり正体不明のノスタルジーを感じる。新しく入れた紅茶を注ぐと紅茶の香りの湯気が立つ。


「それでさ」


震える手をぐっと押さえてずっと言おうと思ってたことを言う。


「あのさ。ちょっといいにくいというか……ずっと言おうとは思ってたんだけど……えーと……」

「いいたいことがあるならさっさといえ!めんどくさい!」


痺れを切らした彼女が怒ったので率直に言う。


「あのさ、窓閉めてくれない?」


冷たい風が吹き荒れ、僕や彼女の髪の毛をくしゃくしゃにしていた。寒い、とても寒い。3、4時間は耐えたがもう耐えられそうにない。


「うわ口紫。きも」


そういってようやく窓を閉めてくれた。


「もっと早く言えばよかったのに」


理不尽だった。エアコンはつけてくれた様だが。


「冬に窓開けてたようなやつにはみえないな」


いつの話だ。というか。


「あれはたまたま外を見てただけだって。よくそんな細かいことを……」


晩秋。学校があった頃の事を聞いていたという話。


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