断猫




「駄目だ!!」


彼女が筆を走らせる音がふと、止まる。


「なにが」


瞑想から戻って、猫の絵を描いていた彼女に聞いた。


「ああ……ああぁ……」


頭を抱えてふらふらとキャンバスから離れる。嫌な想像が脳裏を過り、彼女へと向かう。


「やっぱり駄目だーーーー!!」


モデルである元・野良猫へと駆けだす彼女。アルデンテと名付けられたその猫は少しビクッとしてまた丸まって寝た。


「描き終えるまでアルデンテに触らないって決めてたけどむりーーー!!無理!!かわいい!ふかふかかわいい!!」


猛烈な勢いで猫に頬擦りをする彼女。当の猫は気にもしていないようだ。寛大。

何より僕が想像したような嫌なことじゃなくて良かった。


また彼女は無愛想で豊かな感情の顔に戻ったけど、僕はまだ安心していない。


この間の彼女が冗談だったのかそれとも彼女の兄と同じものなのか。


あのあと結局開かずの扉は開けなかった。


それは、冗談だったからなのだろうか。


それとも、開けると言ったことすら、忘れてしまったからなのだろうか。


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