ねこねこ猫こねこ
「君に情けとか人情とかいうものはないのか」
炎天下、人に大工仕事を任せた当の本人はお茶を飲んで寛いでいた。
僕が終えて部屋に戻ると
「おつかれ」
の一言だった。お茶くらい出しても罰は当たらんだろうに。
だから冒頭の台詞を言った訳だが帰ってきた返事は例のごとく
「そこにいっぱいあるんだから茶くらい自分で汲め」
だった。気遣いの欠片もない。なんだいつになく冷たいなとか悪態を吐きながらお茶を飲んでいると、なにやら目に慣れない物が飛び込んできた。
ふわふわもこもこのそれは、どこからどう見ても猫だった。
ひとり(いっぴき)だけ冷たいミルクをがぷがぷと飲んでいた。
ぴょこぴょこ動いてはこてんと転がる。愛らしいの一言に尽きる。
「食べるのそれ」
「食べるわけないだろ馬鹿がレンチンするぞ」
「レンジあるの」
「ないよ」
僕を罵倒する間も猫から目を離さずしかも初見と言って良いほど優しい、慈愛に満ちた顔をしていた。
「うえなにそれ」
「なんだよ」
漸く顔を上げた彼女は怪訝そうな顔に変わっていて。
「猫にだけ優しくしないで人間にも優しくしてみたらどうだろう」
「お前もねこ抱っこすれば分かる」
ほれ、と猫を渡されて、落とすわけにもいかず抱きかかえた。
心底安心し切っているらしく、ぐにゃぐにゃしててあったかい。
細い毛はふわふわ熱を伝えてきて、それは確かに。
生そのものが手の中にあった。
「顔が緩んでるにやけてるきしょい」
酷い言われようだがなるほど愛でたくもなるわけだ。
「ねこかわいい」
「だね」
「……悪かったな茶の一杯も出せなくて」
「いやかわいいから仕方ない」
ふわふわもこもこは世界を救う。
いつしか猫を盾にくくりつけた兵士の気持ちが分かってしまったのだった。
「で、結局この猫はどうしたの」
「校舎に侵入してきた。最初は捕まえて喰おうかと思ったけどかわいいから飼うわ」
「飼い方分かるの」
「飯食って寝ればなんとかなる」
猫の可愛さも余って、僕は彼女の代わりに買い物やら世話やらを請け負おうと思った炎天下夏の日。
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