雑用契約



僕が君を助けるのはそう難しいことじゃない。何しろ「あの」君が困っていたのだから。

僕が戸惑うほどに余裕を増すあの君が。


「困った」


なにやら机に紙類を広げて書き込んでいたかと思うと急に時が止まったかのような。

本当に時が止まったのかと思って二度ほど時刻を確認した。特に止まっていないし僕は動けている。長針が三回くらい回った辺りで声をかけることに。


「どうしたの固まって。瞬きもしてないけど」

「費用関係の書類やら何やらを整理してたんだけど何がなにやらさっぱりわからない」


そういえばこの建物を使って色々してるって言ってたっけな。


「今までどうしてたのさ」

「じいちゃんの仕事だったから」

「ああそう」


ということはどうやら割と最近に管理人を始めたようだ。


「お前やってよ」

「えっ。というかそれって他人が見ていいもんなの?」

「いいよお前だし。で?出来るの出来ないの?」


頼む側の彼女が偉そうなのは何事だ。かと言っても本当に困ってる様なので代わりに片付けてあげることにした。そのままやるのは癪なのでわざとらしいほどに仰々しく受け取りながら。


「お任せください暴君様」

「おうよろしく終わるまで帰んなよ」


たっぷりの皮肉も耳に入らず。彼女はゲームを始めてしまった。

ふう、と息をついてから取り掛かる。自慢じゃないけどこういうのはとても得意だ。


彼女のゲームの音が響く中で、手早く書類の処理を終えた。


「はい終わった」

「はっや。お前ちゃんと全部終わったのか」

「終わったよ。気になるなら確認しなよ」


彼女はきっちり整頓された書類の束に感心しながら大きな真ん丸い目で僕を見る。


「お前ちょっと優秀だな」

「今ばかりは『ちょっと』っていうの余計じゃないかな」

「やっぱり雇ってやってもいいぞ」


書類に目を通したまま呟かれた。これ本気かなあ。

それにしても、今これらの書類を一通り見たけど、やっぱりいろいろと複雑なようだ。

あと予想以上に書類を溜め込んでた。


「そうだなあ。大学出たら考えるよ。」


もし本気ならね。

僕の方は心の準備がばっちりな訳だけど。


もしそうなったらの為に、もういくつかだけ、資格を取っておこうかなと思った。


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