彼女のP・S




「嫌いだ」


それが、たとえ小さくとも僕が初めて見た彼女の「怒り」の感情であった。


最初僕と彼女はいつも通り、1-3と書かれた跡のある教室で寛いでいた。


僕は黙々と図書室(だった部屋)から借りてきた本を読んでいて、彼女は充電器に繋ぎながら携帯をいじっていた。

そして40分ほど僕がページを捲る音と彼女の携帯の操作音だけが響いていたかと思うと、唐突に冒頭の台詞を呟いたのだ。


「なに?どうしたの」

「まずはこれを最初から見ていけ」


突きつけられた画面には割とプライベートなんじゃないのかなというページが。


「ブログ?」

「ちがう。今流行りのSNSとかいうやつだ。友達に招待されたから仕方なく始めた」

「へー。僕はこういうのめんどくさそうで敬遠してるんだよな」


友達いたのかという疑問はさておき。相手は回を重ねるごとに突っ込んだ質問をしていて、下に行くに連れ彼女の返信率は低下していく。

なんだか距離感が近すぎる人を思い出す気がしたが、友達ならこれくらい、


「普通じゃないの」


そう思った。だって、僕だって親しい仲なら普通にそれくらい聞かれたり聞いたりするし。


「よく見ろ馬鹿が。私のここでの友達は招待されたやつと他現実でも友人なやつらだけだ」

「5人」

「数の話はしてない」

「ごめん。ねえ、友達の親とも仲いいでしょ」

「一緒にドラマ見てご飯作って友達の帰りを待つくらいには」

「そう……」

「で。それでもお前はこれが普通だと思うか」

「ちょっと過干渉かな。知り合いにもいたし。たまにいるんだよね。知り合いの知り合いだからってやたら親しげなの」

「私はそれが嫌だ」

「んじゃあアク禁しなよ」

「アク禁?」


どうやらそれが彼女にとって導火線だったらしく次に会った時にはさっぱりしていた。


「というより公開範囲を狭めれば良かったのに」

「なんだそれ」


彼女へのSNS指南は予想外に多かった。


「もっと早く言えよ大馬鹿野郎」

「まさか知らないとは」

「くっそくっそ知らんやつにまで私の私生活が公開されていたかと思うと腹立たしいな」


大した事書いてなかったけどね。


「ねえ始めた時とかに僕を招待しようとか思ったりした?」

「いや別に」

「ああ……そう……」


ちょっとがっかりしたのは内緒。

それからしばらくして彼女はすっかり飽きてしまったらしく僕は「やっぱりな」と、どこか納得していた。


彼女のP・S(パーソナルスペース)は、思ったより狭くて、とても深かった。



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