180度の休日
「西瓜割りするぞ」
「じゃあスイカはどこにあるのさ」
「ないよお前が買ってくる算段だからな」
毎度の事ながら、彼女の言うことには度々苦労させられる。
さて、今が夏でスイカ大売出し、とかいうなら問題ないだろう。しかし、今は冬なのだ。まごうことなき冬なのだ。外にはざんざか雪が吹き荒れているし、この部屋にはストーブが焚かれている。それに、強いて言うなら今の季節ならいちごではないだろうか。もしくはりんごでも良いが。
それら全てを飲み込んで、適当に話す。
「どうして急にスイカ割り?」
「あとかき氷ととうもろこしとー、水泳はさすがにないけど花火はやりたい」
「……かき氷ととうもろこしなら何とかならないこともないけど……」
かき氷なら家庭用のかき氷機と氷で何とかなるだろう。とうもろこしはまあ真空パックのならどこかしらに売ってるし冷蔵庫にあったかもしれない。何とかなるだろうと、準備をしてあげた。
テーブルに並んだ食べ物を前にはしゃぐ彼女。ぴたりと動きを止め、何事かと思うと片眉を上げて問う。
「花火はないのか」
「ない」
ちぇーと漏らしながらビデオデッキで何やら再生する。
「何か観るの?」
「おうよ」
ふーんと相槌を打ちながら画面を眺める。素人かと思うほどに酷い演技と、分かり易すぎる合成。映画を作る気はあったのかと問いただしたくなる出来だ。黙って観ているとよく分からないままに人が死んだ。これはもしかしなくても。
「ホラー?」
「そうだ私厳選のホラーだ」
「演技も上手くないし合成だって判るしどう見てもB級じゃないのこれ」
「話は関係ない」
は?どういうことだと口を開きかけると彼女がそれを制する。
「観てろ聴いてろ」
そう言って口に人差し指を当てる彼女が可愛らしく見えてしまい黙る。
と、その時画面からどう考えても映画の台詞じゃない声が聞こえてきた。
慌てて画面に向き直ると、画面の端っこにコンニチハしているものが。
そう、見るからに生きていないようなものが。
そして、そこでテープが切れ、自動で巻き戻しが始まった。砂嵐のザーッという音の中で彼女は満足そうに微笑む。
「ねえこれ」
「だから言っただろう厳選したって」
「どういう」
「まあいわゆるお蔵入りの物を譲ってもらった」
どういう伝だ。
ストーブでちょっと暑い室温とは裏腹に全身に鳥肌が立った。
「こわかったか」
「季節外れな位には」
「ふふふ、お前怖いの苦手なのか」
「今の今まで平気だと思ってたんだけど」
「棚いっぱいにあるぞ」
「遠慮しときます。スイカの飴買ってきてあげるから別の観よう」
「しかたない。トトロでもつけておくから早急に買ってくるように」
そして極寒の中店を数軒まわりスイカの飴を買った僕は、トトロを見たせいでおはぎが食べたくなったらしい彼女のためにまた店に走ることになったのだった。
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