雪解けの街



「もーいーくーつねーるーとー春よ早く来いさっさと来いぐずぐずするな」


前半の間延びした歌とは180度違うその口調と内容に思わず噴き出す。


「ねえどうしたの急に」


咳き込む僕を凝視しつつ


「それはこっちの台詞だなんだいきなり噴き出して」


汚いなあ、と言いながら七輪で焼いている餅を引っくり返した。


「だって、変な替え歌なんかするから。冬嫌いだったっけ?」


まだ早いだろう引っくり返したばかりの餅を一口かじり、案の定硬かったらしく網の上に戻す。


「冬は好きだ。雪がきれいだしおいしいし」


火を覗き込みながら炭をつついている。火力の問題じゃないだろう。


「さすがにもちは飽きたんだ」

「それだけ?」

「あと、春はもっと好きだからな。四季の中で一番好きかも知れない。秋と迷うけど」


ただ単に気温が極端なのが嫌いなだけじゃないかなと思う。服も重ねてきたりするのは嫌いみたいだし。


「なあ。春になったらピクニックに出掛けようか」


溶け始めた雪が残る町並みを窓から眺めながら提案された。

彼女が管理人を務めている、廃校になった学校を改装したこの建物には、ほぼ毎日のように来ている。


最初は静かに勉強するために来たのだけれど。


受験も終わった今も毎日来ているのは。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る