しろいきといき
冬の息は白い。氷点下の気温にさらされて白く広がり、そして消える。
僕は冬になって、彼女が普段ため息を多くつくことに初めて気付いた。
呼吸が可視化するせいで、僕らの一呼吸一呼吸は見ず知らずの人にまで見えてしまう。僕と彼女も例外ではなく。
「……三回目」
一緒にバスを待っていた彼女は僕のいきなりな呟きにこちらに顔を向ける。
「なんだ急に私のおなかが鳴った回数か嫌なやつだな」
違うんだけど、というよりお腹鳴ってたのか。気がつかなかった。
「ため息をついた回数だよ。なに、お腹すいてるの」
「いまは腹一分目くらいだ」
お腹空いてるんじゃないか。バスの時刻表を見てバスが来るのがまだまだなことを確認する。
「バスの時間までどこかで時間を潰そうか」
雪も降ってきたことだし。というと彼女は大きな白い息を吐き出して、笑顔で頷いた。
「えっ?ため息じゃないの?」
「自分の呼吸が見えるのが嫌だから出来るだけ息しないようにしてる」
なんだ。新たな発見かと思ったらとんだ見当違いで彼女はどこまでも彼女だった。
「……今日は一回しかため息はついてない」
僕の落胆する顔を見てかフォローに入る。じゃああの三回の大きい吐息のうち一回はため息だったわけだ。
「どうしてため息なんかついたのさ」
「これでも減った方だ。お前と会うようになってからはな」
何でか偉そうにふんぞり返る彼女とその言葉に、マフラーで口元を隠す。きっと赤い。呼吸を押さえ込む。きっと普通よりも白い吐息になるに違いないから。
「はらがへった」
ぶち壊しだ。ためていた呼吸を全部吐き出した。
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