白雪の出逢い



「影に色がつくのをご存知だろうか。

雪の上にあなた。そしてオレンジの街灯。そうすると影が青くなるのだ。」


暮れるのが早くなった夕方、豪雪地方のとある施設内ある部屋にて。僕は大学受験の為に道具を持ち込んで勉強に励んでいた。

部屋のなかは静寂が反響していて、やかんの乗ったストーブと僕のペンだけが、静かな室内に音を立てていた。窓の外は吹雪いていて、窓枠まで雪が貼り付いている。静かだ。

ふと息抜きに外の空気でも吸おうかと背骨を鳴らしながら窓から外を見た。

近くの空は暗く青いのに、遠くは街灯や住宅街の灯りで綺麗に明るい。


雪の降る音が聴こえる。夜中寝ている時が顕著だが、雪も降る時に音がする。

しんしん、なんて雪にぴったりな音じゃないか。

雪の降る音の邪魔をしないように息を潜める。


心地よい静寂を爆破するように、突如バタバタと走り込んで来た。誰かが。


「この辺でさかなをみなかったか!」


僕より些か年下だろう、勇ましい少女が髪の毛を振り乱しながら駆け込んで、いやむしろ飛び込み前転で転がり込んできた。確実に三回転はしてた。


「魚ですか」


木を隠すなら森の中、魚を探すなら海にでも行った方が良いんじゃないだろうか。

というか、なぜそんな必死になって魚を探しているんだろうか。


「そうさかな!多分おいしいやつで出来れば焼いてあるやつがいい」


ふと家が恋しくなった。というか帰りたくなった。


「ごめんなさい魚は見なかったです」


僕がそう言うとその子は舌打ちをして転がった時も落とさず持っていた白米を食べた。


「塩もってない?」

「消ゴムでもいいですか」

「だめだ」

「ですよね」


扱い方が分かってきた気がする。

舌打ちをした彼女は窓を開けると窓枠に積もっていた雪を箸で取り食べた。


「雪のあじだ……」

「でしょうね」

「でもご飯には合わない」

「でしょうねえ」

「このままじゃご飯が冷めてしまう」


温め直せばいい話だしそもそもなぜこんなところで白米を持ってうろついていたのか。

ちょっと興味がわいたので歩み寄ってみる。とりあえず何かないかと鞄を探したけど某チョコレート菓子しかなかった。ダメ元で差し出してみると意外なことに受け取った。箸で。


「君は優しいな。隣の部屋のやつは文鎮投げてきたぞ」

「どうして白米持ってうろついてたんですか」

「ご飯が炊けたから」


どうも根本的なところで話が噛み合わないようだ。


「はーさかなが食べたい。チョコおはぎも悪くないけど」


いつの間にか開封してご飯と共に食べていた。おえ。


「家に帰って食べるとかすればいいじゃないですか」

「家はここの管理人室ですうちにさかなはありません」

「あ、じゃあなんかお世話になってます」

「いえいえ」


甘そうな茶色い米を完食した彼女はどうやらこの施設の管理人(か、その関係者)らしく、一応挨拶しておいた。


食事らしきものを終えた彼女はいきなりホワイトボードの前に立ち教師の真似をし出した。


そして冒頭に戻るわけだ。


「不思議だな、雪の上に青い影が落ちるんだ」

「どうして急に影の話?」

「さっきみたから。あのな、青いんだ、雪。青かったんだ」

「雪は色無いですよ」


どこまでも頭の固い僕が面白いらしく、次から次に語り出す。


「雪はな、あったかい。寝れるくらいあったかい」

「氷の塊があったかい訳ないじゃないですか」


なにが面白いのかふふ、と笑い。


「出席を取ります」



暗に、名前を教えろと言っているのだろうか。


彼女の期待に満ちた目と視線がかち合って僕は、彼女とは長い付き合いになるんだろうなと確信していた。



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