死んでいくけど可愛い音



「ぱりぱりぱりぱり」


唐突に口にした謎の言葉に首を傾げる。


「どうしたの急に?」

「秋の死んでいくのの音」


隣を歩く彼女は時々こうして訳の分からないことを口走る。夏にふと訊いてみた時、彼女は恥ずかしげもなく、さも当たり前のように「ただ生きてるその時その時に思ったことを口にしているだけだ」と言った。

本音どころか些細な会話ですらスムーズに出てこない僕はそんな彼女がうらやましくて仕方なかった気がする。


相変わらずくるくる回りながら銀杏並木の落ち葉を踏み歩く彼女は、彼女の言うことを踏まえた上で例えるなら秋の死神だろうか。ちょっとおかしいな。ひとりごちてそう笑うと彼女はまるで不審者でも見るような目で僕を見る。恥ずかしい。


彼女がたてる『秋の死んでいく音』は恐ろしい内容にも関わらず可愛らしく軽い音で。


僕は思わず微笑んで、また彼女に冷たい目を向けられる。


冷たい風が足元に運んできた、一枚のイチョウ。

足を伸ばし、踏んでみる。



くしゃ。



かわいた軽い音が鳴る。

彼女のように可愛い音は鳴らなかった。首を傾げ彼女を見やる。

彼女は可愛い音を立てながらイチョウだった粉末に包まれていた。


それはきらきらと暮れ始めた夕陽にきらめいて。


秋を殺すのはちょっとしのびないけど、彼女があんまりに楽しそうだから。


金色の粉が舞う秋の夕暮れに、華麗な金色の死のダンスをご享受願おうと、彼女の方へ向かった。


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