代官


 母から解雇されたアルバは、動かない父にも見切りを付けて、殿下に直訴する形を取りました。

 そこで陛下ではなく殿下というところが、さすがと言いますか。

 結局陛下も関わることになりましたけれどね。


 彼としては、私たちを王都に呼ぶつもりもなかったようです。

 家に届いた辺境伯家からの手紙を見て、その中身を読まずとも何が起きているかを察して動く、アルバらしい気配り。

 産後なら来ないだろうと考え、殿下もこれを了承していたそうですが……陛下が関わったことでその計画は失敗に終わった、というのは後から殿下に聞いたお話です。

 しかも陛下はあの引継ぎ書を大層気に入ったとのことで、アルバからそれを取り上げると……有難いのか分かりませんが、それがあの日へと繋がりました。


 

 アルバは何故父へと直訴しなかったのでしょうか。


 大臣室には頻繁に足を向けていたアルバですから、その機会はいくらでもあったように思います。

 けれども父は会議や出張での不在が多く、ほとんどは部下の方に書類を手渡すだけで終わっていたよう。

 重要だと伝えても、部下の方々が国政より大事なことはないと、父にそう強く伝えることはなかったのだと思います。それは部下にそのように教育していた父も悪いのでしょうね。


 けれどもそれで大臣より殿下に早くお話が通じたのはおかしなことです。


 それもその年の納税出来ない問題がすでに発覚していたからだと、殿下はご説明してくださいましたが。

 アルバがその機を狙っていたとして、その時点ならば父だって話を聞いてくれていたように思います。


 アルバから父への罰だったのでしょうか?



 そんなアルバには、お礼も兼ねて。

 辺境伯領に来ないかとお誘いしたのですけれど。 


「そうだな。彼のおかげでリーチェは侯爵領のことを忘れられている」


 忘れたわけではありませんが。


『この家に憂いを残すことはございません。どうか辺境伯家でお幸せに』


 最後にアルバが掛けてくれた言葉を思い出して、いただいた幸せを噛み締める日々です。


 アルバは今、侯爵領で現地の代官を務めているとのこと。

 元気でいるからお嬢さまはもう忘れていいのですよ、とお手紙を頂きました。


 彼があちらにいるのであれば、侯爵領は今後も安心ですし、父が一年で領地を立て直せた理由も分かります。



 アルバのこの一連の働きを思いますと。

 一年と少し前のあのとき、父のすべてが演技だった、陛下や殿下はそう信じているようですが。


 本当はどこまでが演技だったのでしょう?


 疑って聞いてみるのですが、父は今でもそれは父親の秘密だと言って教えてくれません。

 それはちょっと狡いなと感じています。


 父に狡いな、と思えたことが私には新鮮な喜びだったりするのですが。





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