血統


 今日は見付かってしまいましたね。

 お仕事中だから気付かれないと思いましたのに。


「旦那さま。もっと歩いた方がよろしいと言われているのですよ。それに一人ではありませんでしたからね?」


 侍女も兼任する女性騎士が一緒に来ていたのですが。

 今は気を遣って外してくれているだけです。


「違う!出掛けるのは、私がいるときにしてくれ!」


 まぁまぁそれではなかなか出掛けることが出来なくなりますね。

 旦那さまは当主としてこの地にいると忙しい方ですから。


 そういう想いを持って振り返れば、あの王都で一時過ごした時間が酷く懐かしく思い出されます。


 またいつか旦那さまと二人でどこか遠くに行きたいな、と思ってしまう私ですから。

 まだまだいい母親にはなれていません。


 でも今はお出掛けから話題を逸らしたいので、別のお話を。

 この時期にお部屋に閉じ込められてしまっては大変困りますからね。


「ちょうどお手紙が届いていたので、少し歩こうと思っただけなのですよ。そうそう、旦那さまにもお手紙が届いておりました。あとでご確認くださいませね」


「またか。要らんと言っているというのに」


 旦那さまにも同じく王家からのお手紙が頻繁に届けられておりまして。

 そちらには『早く陛下を辺境伯領に送りたい』という内容が言葉を変えながらびっしりと。


 お二人はとてもよく似た親子だったのです。

 殿下は嫌がっておりましたけれど、これも争えない血というものなのでしょうか。


 でもあのように何でも言い合える親子というのは、大変よろしいものですね旦那さま?


 え?あんな親子にはなりたくない?

 あれから学んではだめだ?


 でも本音で何でも言い合う関係はとても魅力的に感じます。

 私たちはすでにそうだろう?ふふ。確かにそうでした。


 大好きですよ、旦那さま。


「アルバには今日も感謝をしなければなりませんね」


 私は長くお世話になった彼のことを思い出していました。

 すべてのことで暗躍していたのは、あの侯爵家の元家令アルバだったのです。




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