成長


「ビアンカはまたあの子たちのお世話ですか?」


 ちょうど弟も今日の彼女がどうしているかと気になったようです。


「えぇ。今日はねぇねと一緒に冬支度をするのだとあの子たちも張り切っていたわ」


 この辺境伯領でもっとも変わったのは、私たちの妹ビアンカでした。

 そもそもこの地まで妹は来ないと思っていたのですが。


 私の子どもたちに興味津々だった妹は、誘われるとここに来ることを即答。


 煌びやかな王都の暮らしに未練があるかと思えば、そんなことはなく。

 もう令嬢でなくなるのよ?と暮らしが変わることも説明したのですが。

 意外と本人は、令嬢らしさへの執着もなかったのです。

 綺麗なドレスを見ることは好きなようですが、着ているのは疲れるからそう好きではなかったと。


 これには驚きですよね。


 そこでやっと私は、そういえば妹もまた家に籠るばかりで、そう王都を知らなかったのだと気付いたのです。


 あの人は妹を褒めながらも、必要なマナーも学ばせずに、社交の場に連れていくこともしていなかった。

 すると妹はほとんどの時間をあの家で過ごしていたことになり、私とそう変わらない暮らしをしていたのでした。

 むしろ私と違ってすることがなかった分、ずっと辛い想いをしていたかもしれません。

 着飾って出掛けられたのも、あの舞踏会のときくらいで。

 あの日は母が参加を許したそうですね。姉を連れて帰るという約束の代わりでしたので、あの子なりに頑張っていたみたいですけれど。

 当時は母の影響が強過ぎました。


 そんな妹は、私の子どもたち、彼女からすれば甥と姪を、それは気に入ってくれまして。

 二人の世話役を自ら願い出てくれました。


 この地で何をさせたら良いものかと悩むところだったので、それは有難かったのですが。


 三歳児となったやんちゃ盛りの長男の相手は大変ですし。

 長女も一歳半を過ぎて動き回るようになりましたので、大分手が掛かります。


 妹に子どもの相手が出来るのかと、それは心配したのですけれど。

 周りの教えも素直に受け入れ、一緒になって遊んでいるお姉さんらしい姿を見ると、姉として感慨深いものがありますね。


 でも妹が大きく変わった点はそこではありません。

 妹は子どもたちに恥じないようにと、マナーを含め、自分から進んでお勉強をするようになったのです。


 子どもってこんな風にきっかけがあると急成長するものなのよ、と言っていたのはお義母さま。


 その後に旦那さまの小さい頃のお可愛らしいお話を沢山聞かせていただいて……ふふ。

 旦那さまはいつから可愛らしいお方だったのでしょうか。

 きっと最初からそうだと思えば、お側に居られなかった長い時間が惜しくなってきます。


「また来ていたのか」


 弟と私は声のした方へと振り返りました。


 旦那さまが仰るには、こういう不意の動きが私たちはよく似ているそうですね。

 自分たちではどうにも確認出来ないことなのですが、弟とも妹とも似ている部分があって面白い、と旦那さまはときどき笑っていらっしゃいます。


 私からすれば、旦那さまと子どもたちにもそういう部分があって、いつも可愛らしく感じているのですが。

 旦那さまに早く会いたくなってきました。



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