終幕
変わった髪型に妙な眼鏡を付けたまま、くわっと目を見開いた陛下は、何かを悟られたご様子です。
「そういうことか!許さんぞ、侯爵!大臣の罷免もなしだ!」
「事情をお聞きになりましたでしょう?これほどの問題を起こした男を大臣に据え置いて、陛下の治世に良きことは何ひとつありませんよ」
「この場を許したのもそれか!私の悪ふざけが過ぎると止めてきた君が今回はやけにおとなしいのは、反省しているからとばかり……これは許さんぞ、侯爵!」
「許さずに是非厳しく罰してください。ノエルにはすまないことをしたな。息子に仕事を押し付けて、家も守れぬ不甲斐ない父を許せとは言わん。だがどうしてもこのまま息子に私と同じ道を歩ませたくはなかった」
父はもう従者に扮した陛下を見ようともしませんでした。
実は父も大分お強い人かもしれません。
ノエルというのは、弟の名前です。
「いえ、私は父上を許す立場にはありません。こうなったことも私の責任ですし。この三年の間に、私には当主はとても無理だと分かりました。ですからかえって良かったと。その代わりではありませんが、父上にはお願いがあります。お話した通り私を──」
「分かっている。この一年は厳しく鍛えるが覚悟してくれ」
「こちらからもお願いします。これまでの不出来も謝罪します。ですから妹も──」
「私の娘だ。見捨てはせん」
なんでしょう。弟の顔色が良く変わっていますが。
その代わりに侯爵夫人の様子が……。
「へ、陛下ですって……?そんな、わ、わ、わたくしは……」
白目を剥いてぱたんと倒れてしまいまして。
父が支えたので大事にはなりませんでしたけれど、本当に医者を呼ぶ大騒ぎにはなりました。
陛下のおかげでこの場を早々に終えることが出来た、そう思えば有難かったのでしょうか?
その陛下ですけれど……。
まだ沢山話したそうにしておりましたのに、恐ろしいほどに冷たい目をした殿下に引き摺られながら、お城へと戻っていかれたのです。
侯爵が止める役目を放棄するから……すまない。ここに来ている私が言ってはいけないことだな。
私たちがここにいたせいで、夫人を過剰に刺激してしまった。
この件は全面的に父と私が悪いから、侯爵の罰に関してはその分を相殺し……要らんと言わないでくれ。
君を失って誰が一番苦労すると思っている?私はこれから先が怖ろしくてならないのだよ……。
殿下は力なくそう言い残したあとに。
本当に陛下を引き摺って……。
人が人の首根っこを掴んでそれを引き摺るお姿。
私は初めて目にしましたが、王族の方々でこれを見ることになるとは思いませんでした。
それも陛下と殿下ですからね。
まだまだ私には学べることが沢山ありそうです。
世の中にはあのような親子がいることも分かりましたし、王都に来て良かった。
いい母親になれるよう、これからもよく学んでいきましょう。
あら、どうされました旦那さま?
今のは忘れていい?どうしてですか?
あれは特殊過ぎる親子だ?記憶から抹消してくれ?
まぁ拗ねていらっしゃるのですね、可愛らしい旦那さま。
拗ねなくていいのですよ?
私はいつでも旦那さまのことばかり見ていますからね。
大好きです。旦那さま。
まぁ一段とお耳が赤く……。大好きです。
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