時間


「私は大臣を降りることになった。近いうちに侯爵でもなくなるだろう。時間はたっぷり出来る。だからこれからはどちらの母親のことも忘れ、一から二人でやり直したいのだよ。君はこれに付き合ってくれるだろうか?」


「なんですって?大臣を降りる……?侯爵でもなくなる……?」


「領地がこの惨状ではな。当主として責任を取らねばならん」


「……そんなものはあの子に取らせればいいのです!あの子がこの家をめちゃくちゃにしたのだから当然ですよ!」


「まだ娘を責めるか?娘が何をしたと言う?」


「ですから、あの子はわたくしの娘でありながら──」


「その娘は他家に嫁ぎ、今や立派に親にもなっているのだよ?私たちがこのままでいいと思うか?」


「……知らないわ。そんなの、知らないわ。あの子なんて、もう知らない子。そうよ、わたくしの娘にならない子なんて知らない子なの。そんなの、もう要らない。要らないわよ。子どもなんて欲しくなかった」


 侯爵夫人の声が急速に小さくなっていきました。

 顔色も悪く、医者でなくても良くない状態だと分かります。


「少し休んだ方がいいな。今日は一度に話し過ぎたんだ。休んだあとにまたゆっくり語ろう。時間はたっぷりある。というわけで、陛下」


 急に呼び掛けられた陛下は、「出番か!」とそれは嬉しそうな声で言いました。


 この国の王様は偉大な人だと分かります。

 その一言で部屋の雰囲気をがらりと変えてしまいましたから。


 お隣の旦那さまが、相変わらずその場に適さぬ空気しか作らん奴だな、とぼそり。

 その呆れたお顔も素敵です旦那さま。

 誰が相手でもお強いところも素敵。


「申し訳ありませんが、三年という話は無しにしていただきたい。私にはもう時間がないと分かりましたのでね」


 時間はたっぷりあると言った直後に、時間がないと言う父に、陛下も驚かれたご様子。

 それで言葉を発するのが、父の方が早かった。


「一年ですべて完了させます。そこで爵位も返上しましょう」





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