皮肉


「私は君に仕事をして欲しいと望んでもいなかった。当主の仕事を自分でせずに大臣の椅子に座り続ける自分にも、もう長く嫌気がさしていたからね。それでも私は母に罵倒されることを怖れて、その椅子に座り続ける弱い男だった」


 自嘲するような薄い笑みを浮かべた父は語ります。


「だから母が亡くなったとき、やっと家に戻りゆっくり出来るのだと、それは喜んでね。本当に喜んでいたんだ。君が言うところの薄情な子どもというのは、私のことになろうね。そうしてこれからは君たちを知りながら家族らしいことも出来ると期待していた矢先に……まさか君からも家に帰って来るなと言われるようになるとは。母の死を喜んだ私への罰と思えるほどに、それは皮肉なものだったよ」


「……わたくしが悪いとでも言うの?大臣として忙しいあなたを気遣ってあげたのでしょう?それがあなたにとって良き妻だからと。そうよ、わたくしはあなたのためを想って!」


「君だけが悪いとは言わん。だが本当にそれだけだったか?」


「……分からないことを聞かないでください!他に何があるって言うの!」


「子どもたちのことを知られたくなかったのではないか?」


「うるさいわね!今になって急に父親のような顔をしないでちょうだい!あなたなんて、この子たちの父親でもなんでもないわ!この子たちは、ずっとわたくしが側で見て来たのよ!」


 二人がこれほど長く会話をしている姿を、私はこれまでに見たことがありません。


 他人の夫婦を見ているようだと感じたばかりですが。


 この二人はまだ夫婦でもなかったのではないか?

 話を聞いているうちに、そのように思えてきました。


「もう遅いと言われるだろうが。共にこれから親になっていかないか?」


 まさに今考えていたことを事実だと認めるように。

 父はそう提案したのです。




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