疑惑
「なぁ、侯爵よ。君は三年前に補佐官が変わったことには気付いていたのだろう?」
「えぇ、字が変わりましたから。気になって一部の中身は確認しましたよ」
「それがこちらですね。昨年と一昨年は……見事なほど内容が変わりませんね」
殿下のお手元には、話題となっている二年分の書類がありました。
それについては私の知らぬところです。
「ここで何も感じなかったとは思えんのだがな?これを鵜呑みにしてやったとして、やはり納得は出来んぞ?なぁ、息子よ」
「えぇ。今日の醜態振りはやり過ぎだと思いましたね」
やり過ぎとは、どういうことでしょうか?
私は父を眺めましたが、父の表情からは何も窺い知ることは出来ません。
「それはお前の失態でもあるのだぞ、息子よ。少しは反省せよ。しかし、侯爵よ。そのすっきりした顔がもっとも納得いかんからな?」
父をよく知らない私には、父の顔をいくら眺めても陛下の仰るところは分かりません。
しかしそこから逃れられない血筋というものを確かに感じ取るのでした。
「元々私はこのような顔をしておりましたよ。ところで、陛下。私はまだしばし当主として働くことは出来ましょうか?」
「ほう?今さら働く気が出たと?」
「侯爵の座に居座ろうというつもりはありません。罰としては我が家は取り潰し、王家に所領ごと返還という形が最適かと思いますが。この状態のままでお返しするわけにもまいりませんので」
「ふぅむ、ますます怪しいな。まぁ、よい。立て直せる見込みは?」
「三年……いえ、これだけの情報がありますから。一年で通常の納税が可能なところに持って行きます」
「それだけではあるまいな?」
「今年度予定していた納税分は、今後三年掛けて分割で払う許可を頂きたい」
「決まった延滞料はいただくよ?」
「もちろんです」
「それだけで足りるかなぁ?」
「それでは今後三年の税率引き上げもご検討願いたく」
「三年と定めてきたか。確かに問題を起こしたのは三年だけだ。だがそれでは夫人が嫁ぐ前の償いにはならんぞ?」
「そちらの罰と混同はしておりません。あくまでこれは陛下へのご提案です。税率に関しては、領民が苦しまぬ程度までに留めることをお願いさせていただきますが」
「分かっておる。その三年後は?」
「どこぞの貴族に与えるなり、王家で所有するなり、お好きなように」
「怪しさしか感じないな!侯爵家はもう無理だと諦めて動いていないか?」
「まさかそのようなことは。私の息子は優秀ですよ」
「家の取り潰しにまで自ら言及しおって、よく言えたものだな?その息子の将来はどう考える?」
父は子どもたちに興味を持つような人ではなかったはずです。
ですから何も考えていないと思っていたのですが。
「叩き直せば現地の代官くらいにはなれるかもしれません。今回の責を私だけに与えてくださるのでしたら、という話になりますが」
手を上げた陛下は、「分かった、もういい」と仰います。
旦那さまを見上げましたら、普段見ないお顔をして父を見詰めていました。
何を感じていらっしゃるのでしょう?
なめた真似を?
旦那さま、今の呟きにはどのような意味が……?
あら、お顔を逸らされてしまいました。
あとで教えてくださいませね、旦那さま?
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